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ドイツの自動車の動力源(2)

  • 発行:2019/07/1

概要

ドイツで電気自動車(EV)シフトが始まったが、自動車メーカーによるEV攻勢には反発や懸念の声も聞かれる。こうした中、2018年度にドイツで新車登録された「純粋なEV」は全体の1%にすぎず、EV用電池の供給過剰が続くと予測され、欧州の電池メーカーが投資に消極的な姿勢を示している。

バッテリーの意味
ドイツの自動車関係者と電気自動車(EV)について話したり、またメディアの報道を見聞きしたりしていると、彼らがバッテリーを(ガソリンの代わりに)電気を貯めておく「燃料タンク」のように考えているような印象を持つことがある。そのため、電池こそEV市場での差異化戦略の重要な要素だという見方はあまり強いように思われない。それでも、ドイツ自動車メーカーはバッテリーについていろいろと対策を講じている。

ダイムラーは、以前はリチウムイオン電池セルの製造を検討していたが、現在は外部から購入することにした。これについては2018年末に発表されたが、2030年までに必要とされる200億ユーロに相当するセルが確保されたといわれる。車載される電池パックシステムはこれらのセルから製造されるが、その工場は3大陸にまたがって6カ所に設立される。いずれも、既存または新たに建てる工場の近くに位置する。ブリュール、ドレスデンの近くのカーメンツ、シュツットガルトの近くのウンターテュルクハイム、へーデルフィンゲン、ジンデルフィンゲン、米アラバマ州のタスカルーサ、北京の工業団地、タイのバンコク、ポーランドのヤボールなどである7

BMWのバッテリーポリシーは少し異なる。中国の電池メーカー、寧徳時代新能源科技(CATL)はエアフルトの近郊にバッテリー工場を建設中だが、場所選びや資金調達についてはBMWが便宜を図ったといわれる。この工場が欧州でバッテリーセルを製造してくれるのは、どの自動車メーカーにとっても望ましいことである。資金をあまり出さずにこのように特別な関係を築くのが、このミュンヘンの企業の考え方である。韓国のサムスンSDIとの関係も密接だ。

BMWはリチウムイオン電池セルを製造していないが、将来の調達を確保するために直接コバルト鉱山の購入契約を締結している。また発想がオリジナルで、ドイツの化学大手BASFと組んで中国のCATLも加えて、ドイツ連邦経済エネルギー省の傘下にある国際協力事業団にアフリカのコバルト鉱山での人道的な現地人の労働の在り方についての研究を委託している。これは、電池が「善玉」である(「ドイツの自動車の動力源(1)」(2019年7月16日付掲載)を参照)条件を前もって考慮しているからである。

フォルクスワーゲン(VW)もリチウムイオン電池セルの製造については二の足を踏んでいた。ところが、2019年6月12日にスウェーデンのバッテリーメーカー、ノースボルトに9億ユーロ出資すると発表した。これは以前テスラに在籍していたピエテ・コールソン氏が立ち上げた会社である。VWは、この会社と組んで現在エンジン工場のあるザルツギッターで年間16ギガワット時(GWh)の生産能力のあるリチウムイオン電池セル工場の建設を2020年に開始し、2023/2024年に製造を始めるという。現在、VWはノースボルトの株式の20%を所有しているが、将来は50%にまで増やす8。VWのリチウムイオン電池の需要は2025年には150GWhに及ぶという。

ただしこのノースボルトはBMW、シーメンス、スイス産業用ロボットメーカーのABB、スウェーデンのトラッックメーカー、スカニアとも関係が深い。ザルツギッターにノースボルトの工場が設立されると、スウェーデンのシェレフテオ、ポーランドのグダニスクに次いで3番目の工場となる。またドイツの電池メーカー、ファルタはドイツ政府の支援を受けてフラウンホーファー研究機構とミュンスターでバッテリーセル生産技術の共同研究に着手することになっている9。以上が、バッテリーセルに関して欧州が東アジア勢に対抗しようとする試みである。

反対に東アジアのメーカーは、欧州での直接投資に積極的である。例えば、韓国のLG化学はポーランド、サムスンSDIとSKイノベーションはハンガリー、中国の比亜迪汽車(BYD)は英国もしくはドイツ10といった具合に続く。

欧州の電池メーカーが投資に消極的である理由
それでは、東アジアの電池メーカーがこれほど投資に積極的であるのに対して欧州の電池メーカーはなぜそうでないのか。彼らはアジアの生産者から高い値段を吹っかけられるとか、納入されなくなるといった心配はあまりしていない。これは、EV用電池は買い手優先の供給過剰状態にあり、今後もそれが続くと彼らが予想しているからだといわれる。このように思う人々が根拠とするのは、自動車用バッテリー市場についてのスタディーに記載されている内容を示したグラフ2である11。このグラフから分かるように、需要と供給の差は、これから2、3年は拡大傾向にある。供給過剰が継続し、2025年でもまだ30%余りもだぶついていると予測されている。

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グラフ2:

 


このようにEV用電池の供給過剰が予測されているのは、多数の企業がEV需要が爆発的に増大すると見なしてバッテリー製造を始めたのに、需要がゆっくりとしか増えないと思われているからである。このグラフが示す内容に賛成する人々は、アジアのメーカーがチャンスを見たら殺到し、供給過剰になると思い込んでいるからである。同時に彼らは、欧州ではそれほど急速にEVは普及しないと考えている。

反対に、ドイツまたは欧州が自力でバッテリーセルを製造しなければいけないと考える人は、EVの普及がどんどん進み、バッテリーが足りなくなると心配する。彼らの頭の中には、下のグラフ3に示したような予測があるからだ12。メディアでは世界的な「バッテリーブームの到来」が囁かれて、東アジアの大手バッテリーメーカーは、比較的裕福な人が多く環境意識の高い欧州で、EVシフトが速やかに進行すると思い込んでいるのかもしれない。

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グラフ3:

 


ドイツ連邦交通・デジタルインフラ省を諮問する専門家グループは、新車登録に占めるEVの割合が2025年までに25%に、2030年までには50%に到達するという目標を示している13。しかし、実際にEVの数が本当に増えていくかどうかはよく分からない。メーカーとメディア、政治家が騒いでいるだけに見えることもある。

EVシフトが二酸化炭素(CO2)排出量削減に役立つようにするためには、充電する電気がどこから供給されるのかという点が決定的に重要であるが、ドイツでは再生可能エネルギーによる発電は40%にすぎない。まだ稼働している原子力発電所を考慮しても、EVが消費する電力の半分はその発電のためにCO2を排出していることになる。また電池製造や、その原材料のリチウムやコバルトを採掘するためにも凄まじい大量の資源とエネルギーが消費される。環境に対する配慮からEVに反対する人も多いので、何か不祥事が起こって電池が「悪玉」にされることもあり得ない話ではない。

ディーゼル不正事件が起きた結果、ひと頃ドイツではディーゼル車を避けてガソリン車を購入する人が増えていたが、この数カ月はディーゼル車が再び人気を回復しつつある。例えば、2019年5月はディーゼル車の新車登録数は前年度比で16%増大した。ディーゼル車は「値引きしてくれるから」などといわれるが「悪玉」にも取り柄があるらしく、再び売れるようになり「ディーゼルルネッサンス」といわれている14

VWのツヴィッカウ工場はEVシフトの最前線で、2019年から10万台のEVが生産されることになっている。この工場を訪れたリポーターによると、従業員は本当に需要があるかどうか自信がなさそうだったという15。2018年度にこの国で新車登録された「純粋なEV」はわずか3万6062台で、全体の1%にすぎなかった16。ドイツ政府は2016年から、メーカーと一緒になってEV購入を助成している。EVと燃料電池車(FCV)の購入には4,000ユーロ(約49万円)、プラグインハイブリッド車(PHV)には3,000ユーロ(約37万円)といった具合に助成金が支給される。ところが需要が少なく予算が残ったままであることから、申請期間が2020年内まで延長された。

ミュンヘンの経営コンサルティング会社は、このままではEVに買い換える人などいないとして、法人用EVを思い切って税制上優遇し、現在のEVの助成額を倍にすることを提案した17。ということは、ドイツでEVを買うと日本円でおよそ100万円も支援してくれることになる。自動車がドイツ経済にとって重要だからだといって、本当にそんなことが政治的に実現するのだろうか。

EVは特に新しい話でない。周知のように20世紀初頭に乗用車を動かすための技術としては内燃機関に負かされた。EVは車体が重たくなる、充電に時間がかかる、走行距離が短くなる、資源の乱用につながる、値段が高くなるといった欠点があり、それは今も変わらない。ガソリンスタンドであっという間に給油できる車の便利さに慣れている者にはこれらのことは本当に面倒で、メリットが感じられないとされている。

ドイツ経済の強みは競争力のある中小企業で、そのほとんどは公共交通があまり発達していない中小都市にある。人口8,300万人のこの国には現在4,700万台の乗用車があるが、その大多数は、クルマ離れがしたくてもできない中小都市の住民に必要とされている。

ところが、ドイツの自動車メーカーは長年プレミアムカー志向を推進してきたこともあってか、経営者の頭の中にはEVとなるとテスラのイメージしかない18。その結果、自国民の半分以上を占める「マイカー族」を軽視しているうちに、自国のシェアまでも東アジアの競争相手に奪われることだってあり得る。その揚げ句、巨額の資金をつぎ込んだ中国市場でも期待通りに進行しないとなると、1945年以来順調にきたこの国にも厳しい事態が到来するかもしれない。

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7 https://www.daimler.com/dokumente/investoren/nachrichten/kapitalmarktmeldungen/daimler-mercedes-benz-ir-release-de-20190122.pdf
8 https://www.volkswagen-newsroom.com/de/pressemitteilungen/volkswagen-beteiligt-sich-an-northvolt-ab-5078
9 https://www.varta-ag.com/baden-wuerttemberg-gibt-startschuss-fuer-neues-batterie-forschungsprojekt/
10 https://www.electrive.net/2019/02/26/byd-beginnt-mit-bau-von-batteriefabrik-in-chongqing/
11 Berylls:BATTERIE-PRODUKTION HEUTE UND MORGEN.Studie zum Akkupack-Markt.März 2018.4ページ
12 https://www.handelsblatt.com/auto/test-technik/elektroauto-batterien-zu-schwer-zu-schwach-zu-teuer-seite-2/3827062-2.html 
https://www.handelsblatt.com/politik/international/e-autos-warum-deutsche-unternehmen-bei-der-batterieproduktion-zoegern/23085714.html
13 https://ecomento.de/2018/11/21/regierungsberaterin-claudia-kemfert-elektroauto-quote-2025/
14 https://www.n-tv.de/wirtschaft/Diesel-Autos-erleben-eine-Renaissance-article21066306.html
15 E-llusion Media,Capital:2019年3月21日。31ページ
16 https://www.kba.de/DE/Statistik/Fahrzeuge/Neuzulassungen/n_jahresbilanz.html
17 https://business-panorama.de/news.php?newsid=579287
18 https://ecomento.de/2019/05/16/volkswagen-chef-diess-zu-tesla-wir-werden-gewinnen/


M000305-48
(2019年7月4日作成)

欧州 美濃口坦氏

電気自動車元年(2)ドイツと中国

  • 発行:2018/02/20

概要

欧州連合(EU)の二酸化炭素(CO2)排出規制以外にも、ドイツの自動車メーカーが電気自動車(EV)へのシフトを進める要因がある。それは中国によるEVの製造・販売義務の導入だ。ドイツの自動車メーカーは、中国で今後拡大するEV市場で従来通りの大きなシェアを確保したいと考えている。だが、この思惑通りになるかどうかは予断を許さない。

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ユーロ救済、脱原発、「難民歓迎」など、ドイツのメルケル首相の政治は納税者の負担を増大させるものが多かったが、国民の「お母さん」がいつもそうだったわけではない。彼女もドイツ経済のために、そしてその結果、国民のために役立つこともしたのである。第一に挙げられるのは、密接な中国との関係を築き上げたことだ。

2005~2017年の間、彼女は9回も中国を訪問した。ドイツから見て東アジアが遠いことを考えると、この数は多いと思われる。首相就任の年は、当時も連立交渉が長引き、その結果、首相になったのは同年11月末だったので時間がなかったようであるが、連邦議会選挙があった2009年、2013年、2017年を除くと、毎年中国へ行ったことになる。また、そのたびに多数のドイツ企業の最高経営責任者(CEO)を連れていき、彼らはいつも数十億ユーロ単位の注文を得てホクホクして帰路についた。そして経済界は「中国で何か困ったらメルケルさんに頼んだらいい」という安心感を持つことができた。

メルケル首相が国際社会でひところ「欧州の女帝」扱いされたのは、ドイツが欧州連合(EU)の経済大国であるためだけでなく、多くの政治指導者が苦手とする中国とのコネクションがあったからでもある。

電気自動車(EV)規制
ドイツの自動車業界がEVにかじを切った第二の理由は(第一の理由は「電気自動車元年(1)ドイツとEU」(2018年2月14日付掲載)を参照)、中国政府が3万台以上を商う自動車製造・輸入・販売業者に対して一定の割合で新エネルギー車(NEV)を扱う義務を導入したことである1。こちらの方もEUの二酸化炭素(CO2)排出規制と同じように、ドイツの自動車メーカーにとって深刻かつ重大である。

NEVとは、EV、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)である。このNEVの製造・販売義務の方針はすでに2016年に発表されており、2018年から実施予定であったが、自動車メーカーの反対を受け実施が1年先に延期された。その代わり、義務付け比率が最初の年の2019年に10%に、翌年の2020年からは12%に引き上げられるといった具合に、予想以上に厳しくなったといわれる。

また、NEVには点数が付けられる。例えば、航続距離が350キロメートル以上の高性能のEVは5点と査定されるそうだが、ドイツの関係者の間では、EVは4点として計算するのが無難だとうわさされている。電気でなくガソリンも使うPHVは2点や3点といった低い点しかもらえない。さらに点数が足りなくなると、同業者からその分を買わなければならない。それができない場合、中国での内燃エンジンの自動車の取り扱いが制限される。最初の年は特別扱いされて、足りなかった分は翌年の2020年に余分に取ることができた点数で相殺することができる。でも現状では、実際にどのように運用されるか分からない。

ドイツ側の計算では、販売するEVの航続距離が長く5点と査定されるなら、2%売るだけで最初の年の10%条項をクリアしたことになる。その結果、残りの98%はこれまでと同じように内燃エンジンの自動車を販売できる。フォルクスワーゲン(VW)を例に取ると、2016年は中国市場で400万台販売した。2019年も同じ台数を売ろうとし、販売するEVが4点しか取れない性能であれば10万台売らなければならないといわれる。

ドイツの自動車メーカーはこのような厳しい規制に不安を覚え、せかされるのが苦手な人もいる国民性からか、2018年初頭からこの製造・販売義務が実施されることを特に恐れていた。自動車メーカーから窮状を訴えられたメルケル首相が中国の李克強首相に働き掛けて、その実施が1年間延期されたそうだ2。対EUとは対照的に、相手が中国となると業界と政府は一枚岩になる。こうしてドイツ側は少しほっとしたわけだが、それでも何かと融通の効くEU内の規制でないために戦々恐々としている。

ジョイントベンチャー
とはいっても、ドイツの自動車メーカーは比較的準備が整っているような印象を受ける。自国の自動車メーカーがEV時代の到来のために遠い東アジアで励んでいることなど、メディアでは大々的には報道されないが、それでも注意深く新聞を読んでいると、もうかなり前から中国側のパートナーと一緒にEVを開発・製造していることがうかがわれる。

例えば、VWは2011年から中国第一汽車集団(FAW)や上海VW(SAIC)と組んで2014年を目指して開発を始めたと報道されている。また2018年に入ってから江淮汽車(JAC)との共同事業が決まり、2018年に電動スポーツ用多目的車(SUV)が市場に登場する予定である。

メルセデス・ベンツのEVプロジェクトはVWより前に始まっている。すでに2010年に比亜迪汽車(BYD)とジョイントベンチャーを組み、BクラスEV版の「デンツァ」を生産・発売しているだけでない。2017年に入ってから北京汽車製造(BAW)とNEVの共同事業を行うことを発表している。

BMWは、従来のパートナーの華晨汽車集団(Brilliance Auto)と一緒にPHVのセダンコンパクトカーやSUVを出している。また将来、EV製造を本格的に始めるために新しいパートナーを物色しているともいわれる。ここに挙げた例は、ドイツの自動車メーカー全てをカバーするものでなく、一部にすぎない。

今回のEVへの移行促進のための規制に関連して耳にする批判は、中国側から許可されてリストアップされたバッテリーしか使うことができない点に対してだ。それらは全て中国製ばかりで、韓国製や日本製は対象外となっている。この規制は航続距離が重視される点数制であり、電池の性能が重要である。点数が欠けると同業者から購入したり処罰されたりすることを考慮すると、自国製品を売りたい気持ちは理解されても、ドイツ側に公平でないとの印象を与えるようだ。

次の批判は、EVに転換した決断の政治的意図に関係する。テレビのニュースで中国の大都市のすさまじいスモッグを見たドイツ人には、この国の政治家が路上交通もEVにしようとすることはよく理解できる。とはいえ、自動車もスモッグの原因になっているかもしれないが、石炭による火力発電の方がより大きな原因ともいわれている。このような事情から、中国政府が国民の健康を心配するだけでなく、別の意図を持つと憶測する人は少なくないようだ。

当然のことだが、中国も安い部品を供給しているだけでなく、強力な自動車産業を築き、国内市場を押さえるだけでなく、日本やドイツのような自動車大国になるという野心を持っている。中国車は値段が特に重要とされるアフリカ、キューバ、アジア、南欧・東欧などの一部の国や地域で走っているのを見掛けても、欧州の主要市場で成功しているとはいえない。

自動車王国を目指す中国にとっての最大の難関は、すでに触れたように、自動車製造において重要な内燃機関・ノウハウの蓄積が十分でないことである。とすると、EVへのシフトが進めばこの難関が存在しなくなり、中国も日本やドイツ、米国、フランスなどの歴史のある自動車メーカーと同じスタートラインに立つことになる。

2018年初頭、中国政府は多くのガソリンを消費する553モデルの自動車の製造禁止を発表し、そのリストの中にVWやメルセデス・ベンツの自動車も含まれているというニュースが流れた3。その後、該当する自動車メーカーが直ちにそのモデルはすでに生産を停止していると発表した。リストにあるモデルがどれもそうであるなら、中国政府がスモッグに悩む国民に対して頑張っている姿勢を示しているだけのことになりそうだ。

しかし、このように中国政府が容赦なく突然製造禁止を命じることに対して、少なからずドイツ人は反発を覚えるようだ。自動車業界の事情通であるJSC Automotiveのヨッヘン・ジーベルト氏4は、今回の措置を正当化する法律がすでに3年前にできているという。ただし、そこには製造禁止といった「制裁」の実行は2020年からとあるので、合法的でないとしている。彼の見解では、2019年に実施予定の、EVを中心とするNEVを一定割合で製造・販売するよう義務付ける規制が深刻に受け止めらるよう、警告を兼ねているそうだ。

中国市場に対するドイツ自動車業界の依存度
ドイツ側に、突然特定の自動車の製造中止を命じる中国に対する反発があっても「ご無理ごもっとも」になるとしたら、それは中国市場に対する依存度があまりにも高いからである。また、嫌な面に目を背けて極端に都合のいいことばかりを考えるのも同じ理由からだ。グラフ1は、ドイツの自動車業界の「中国市場に対する依存度」を示す。

【グラフ1:ドイツの自動車業界の中国市場に対する依存度5(単位:1,000台)
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グラフ1の青い線から分かるように、ドイツの自動車メーカーは2009年から2016年まで乗用車総販売台数を順調に増加させることができた。2016年の総販売台数は約1,473万台となったが、そのうち約500万台が中国市場で売れた(赤い線)。その割合は33.9%に及ぶ(緑の線)。ということは、3台に1台が中国市場で販売されたということになる。ところが、2009年の時点では中国市場の割合は18%にすぎず、およそ5台に1台だったので、この間に依存度が増大したことになる。

よく冗談で、中国が咳をしたらドイツ経済は入院しなければならないといわれる。後述するが、ドイツの自動車業界の対中国依存度は、将来ますます強まると予想される。

【グラフ2:中国市場でのドイツの自動車メーカー・シェアの推移5(単位:1,000台)
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グラフ2の青い線は中国の乗用車市場の急激な成長を示す。2009年には約838万台であったのが、2016年には約2,369万台と7年間で3倍近くに増えたことになる。ドイツの自動車メーカーも、グラフの赤い線が示すように、2009年の約156万台の販売台数を2016年には3倍以上の約500万台に増大させることができた。とはいっても、ドイツの自動車メーカー全体のシェア(緑の線)は2012年の25.3%をピークにその後は漸減傾向にある。

ドイツの自動車メーカー別のシェアは示されていないが、台数が単位であるため、BMWやメルセデス・ベンツはVWよりはるかに少ない。2016年のドイツの自動車メーカー全体のシェアが21.1%である例を取ると、VWが16.8%、BMWが2.2%で、メルセデス・ベンツは2.1%である。BMWは上がったり下がったりしているのに対し、中国市場参入のスタートが遅れたメルセデス・ベンツは、これまで着実に売り上げを増大させることができた。

もっと重要な点はこれからである。2016年の中国市場の販売台数は約2,369万台、世界市場総販売台数は約8,600万台であったが、これは4台に1台近くが中国で売れたことになる。エコノミストの多くは、中国市場は今後成長率が鈍化するとしても、2025年には自動車販売台数が3,500万台以上に達すると予想している。この時点での世界全体の販売台数を1億600万台とすると、およそ3台に1台が中国で買われることになる。

このように予測されているのは、現在ドイツでは1,000人のうち562人が、米国では742人がすでに自動車を所有しているのに対して、中国では75人しか所有していないためである。またこう期待されるのは、中国の経済成長が今後も継続し、富の分配がある程度まで機能して人々が裕福になると思われているからだ。このような事情こそ、中国が唯一の成長市場と見なされる理由である6

ドイツ側の思惑
この巨大な中国市場がEVにかじを切ることは、ドイツの自動車メーカーにとって悪い話ではない。というのは、彼らはこれまでディーゼル車に賭けて、日本の自動車メーカーのようにガソリン車の燃費を改善する方向へは進まなかったからだ。また、その目的である排出ガス規制で重視されるのも、充電スタンドを設置する必要のない高度な技術のハイブリッド車でなく、EVやPHVである。これもドイツにとって都合がいい。充電スタンドを設置できる国は経済力があり、どうせ商売をするなら裕福な人々を相手にする方がいいからである。これもよく聞く自動車関係者の率直な見解である。

先進国での自動車離れを考慮すると、ドイツの自動車メーカーの「中国頼み」が高じるのも当然であろう。彼らは、何が何でも大きなシェアを獲得したいと思っている。例えばVWは、中国市場に100億ユーロを投資して、2020年まで毎年40万台を販売し、2025年までに販売台数を150万台に伸ばすと強気である7

中国乗用車協会(CPCA)や中国汽車工業協会(CAAM)などが発表した数字を基にしたベストセラーリストは、インターネットを通じて見ることができる。本稿執筆時点で2017年のEVの販売状況は分からないが、2016年の状況を見る限り、ほとんどの車種は中国の自動車メーカーである。ジョイントベンチャー組で健闘しているのは日産自動車で、メルセデス・ベンツもBMWも影が薄いし、VWはリストにない8

今後どのように展開していくのかについて考える際に興味深いのは、2017年の上海モーターショーを訪れたトム・グリューンヴェク記者のEVに関するリポートだ9。彼は、米国のテスラに似た中国のスタートアップのしゃれた自動車だけでなく、一般的な中国製EVを紹介している。ドイツから派遣されて現場で中国人と働く人々とも接触したグリューンヴェク記者は「彼らが自ら進んで何かやっているのではなく『ジョイントベンチャー』に強制されている」印象を持ったという。また彼らは「中国政府の好意を失わないため」とか「助成金を確保するため」などと発言していたそうだ。

この記事を読んでいるだけなら、何に不満であるのかが分かりにくいかもしれない。とはいっても、ドイツ・中国の経済関係に関心を持つ人には想像できる。中国企業とのジョイントベンチャーの現場で働くドイツ人エンジニアは、技術が流出することを気にするうちに不愉快になることも少なくないようである。現場に近い人々は、長年自社が蓄積したノウハウを大切にする傾向が強い。彼らと対照的なのは企業のトップで「大所高所」から判断するためか、売り上げを重視する。他方で「以前なら結構長い間もうけることができたが、競争相手になる企業の商品が中国市場に出回るまでの期間がだんだん短縮している」とよくいわれる。

自動車業界に詳しいグリューンヴェク記者は中国製EVにあまり良い評価を与えず、内燃機関に急いで電気モーターをくっつけただけだと手厳しい。彼が褒めるのはドイツ・中国のジョイントベンチャーのEVで、ドイツ本国で製造されているものより性能も良く、また値段も安いのに驚くという。このような半分中国製のEVが欧州に輸出される可能性が脳裏をよぎったようで、グリューンヴェク記者は次のように記述している。

《このようなジョイントベンチャーの製品は、複雑な契約があること、また中国政府からの助成があることもあって、欧州では簡単に売ることができない。第一、これらのクルマは欧州の基準を満たしていないし、ドイツの自動車メーカーは欧州での競争相手の登場を望まない》

ドイツ側が「競争相手の登場」を望むかどうかなど、あまり重要ではないかもしれない。というのは、ドイツの太陽電池メーカーも競争相手など欲しくなかったと思われるが、瞬く間に消えてしまったからである。

【グラフ3:中国市場でのEVとPHVの今後の展開5(単位:1,000台)
M0305-0046-3

グラフ3は、中国市場でのEVとPHVの今後の展開を示す。2017年には約70万台も販売され、数の上では世界一のEV王国といえる。その97%は中国産といわれる10。これらの純中国製には隙があり、グリューンヴェク記者の評価では、日本やドイツ、フランス、米国、韓国の自動車メーカーにも、現在の中国企業の独占状況を変えるチャンスがあることになる。

上述したVWの強気の数字も、このあたりにその根拠がある。グラフ3が示しているように、2025年はEV+PHVが1,000万台を超えると予測されているが、150万台販売するということは15%のシェアを獲得することを意味する。これは、過去の実績(最盛期の2012年に21%、2016年は約17%)を考えると荒唐無稽ではない。とはいっても強力な外国勢とも競合することになり、あまり思い通りにはいかないかもしれない。

ドイツが楽観的になれない要因は、中国企業の存在だ。中国企業は長年にわたるジョイントベンチャーの経験を持つだけでなく、海外でのハイテク企業の買収によって技術力を高めている。ドイツ側のもうける期間の短縮傾向も、この事情を反映している。また中国がEVに転換するのも、工業力の試金石というべき自動車の分野でナンバーワンになりたいからであろう。この点を考慮すると、ドイツ側の望むゲームにはならない可能性も強い。

中国市場は、すでに述べたように2025年には世界で生産される自動車の3台に1台を購入する大きな市場になっている。しかし残りの3分の2を忘れるのも考えものだ。ドイツ・中国のジョイントベンチャーのEVを、欧州では法的に辛うじて阻止できても、他の地域に登場するのを防ぐことはできない。ドイツ人には中国というと巨大なパイに見えて、競争相手になることを考えないようだが、これは面白い現象である。

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1 http://www.sueddeutsche.de/wirtschaft/e-mobilitaet-china-fuehrt-quote-fuer-e-autos-ein-1.3687137
2 http://www.handelsblatt.com/unternehmen/industrie/china-und-die-e-autos-das-grosse-zittern-vor-der-quote/19949604.html
3 https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-12-28/china-to-stop-production-of-553-vehicle-models-over-fuel-use
4 http://www.spiegel.de/auto/aktuell/china-stoppt-bau-von-553-automodellen-die-regierung-gibt-einen-warnschuss-ab-a-1185875.html
5 1~3のグラフの出典はドイツ自動車工業会(VDA)
6 https://www.focus.de/auto/automessen/shanghai-auto-show-2017-fuenf-gruende-darum-entscheidet-sich-die-zukunft-des-autos-in-china_id_6973991.html
7 http://www.manager-magazin.de/unternehmen/autoindustrie/elektroautos-volkswagen-investiert-10-milliarden-euro-in-china-bis-2025-a-1178229.html
8 http://chinaautoweb.com/2017/01/best-selling-china-made-evs-in-2016/
9 http://www.spiegel.de/auto/aktuell/auto-shanghai-2017-elektroautos-chinas-erfolgsstrategie-a-1144511.html
10 上記7と同じ

M0305-0046
(2018年1月21日作成)

欧州 美濃口坦氏

電気自動車元年(1)ドイツとEU

発行:2018/02/14

概要

ドイツの自動車業界が電気自動車(EV)にかじを切りつつある。それは、欧州でEVを本気で売らないと欧州連合(EU)の二酸化炭素(CO2)排出規制の2021年目標値をクリアできないためだ。このようになったのは、燃費の良いディーゼル車で切り抜けようと思っていたのが、大手自動車メーカーの排ガス不正問題でその思惑通りにいかなくなったからでもある。

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長年、自動車産業は近代国家における国のランクを見る上で重要であった。自動車は複雑な機械で、その組み立てに高度で精密な作業が必要になる。部品だけでも(その数え方によって異なってくるだろうが)何千点もあり、何もかも海外から取り寄せることができない以上、それらの製造能力が国内になければならない。ということは、自動車製造技術は高度工業国家の証しともいえる。

また自動車は組み立てるだけでなく、次から次へと効率良く量産しなければならない。このような資本主義的な生産方式は、その考案者にちなんで「フォーディズム」と呼ばれるが、これも偶然でない。これまで破竹の勢いで進んできたシリコンバレーの電気自動車(EV)メーカーが量産でもたついているのも興味深い。

このように考えると、研究開発施設、高価な設備のある工場、また充実した販売網などを持つ自動車メーカーは資本主義の殿堂のような存在で、膨大な投資とノウハウ、人材が必要である。そのため、これまでは自動車製造を簡単に始めることなど考えられなかった。ところが、今やこのような事情も変わりつつあるようだ。

M0305-0045-1「郵便局」がつくった自動車
2010年、アーヘン工科大学の車両技術研究者が町の中を走行するEVをつくろうと思い立ち、ストリートスクーターを立ち上げた。第1号車は18カ月足らずで完成。2011年の国際モーターショー(フランクフルトモーターショー)に展示し、注目される。その後開発を続けていると、2014年にドイツポスト DHLグループ(DPDHL)から声が掛かる。DPDHL側は市内で止まったり走ったりする配達用のEVを求めていたが、ドイツの自動車メーカーは相手にしてくれなかった。そんなに冷たいなら自力でと考え、このスタートアップを子会社にしたのである。

ストリートスクーターの自動車製造は順調に進み、DPDHL内で3,000台以上の配達用のEVがすでに投入されているだけでなく(上の写真)、2017年から配達業者、市町村などの外部の顧客にも販売されるようになった。製造能力も年間1万台から同1万5000台まで拡大。また総重量1,000キログラムも運搬できる大型の2番目のモデル「ワークL」も製造し、2018年からさらに大きなサイズの「ワークXL」が販売される。

DPDHLの手紙・小包事業担当重役のユルゲン・ゲルデス氏は「私たちも自動車メーカー」というときには照れ笑いする。民営化されたとはいえ、郵便局と自動車の製造は一般的には直接つながらないからである。

2018年の4月のことだ。超一流のドイツの自動車メーカーがフランクフルトの町で架空の介護事業所名義でこの元郵便局の運搬車をレンタルし、別の町にある自社の敷地で走行試験を行っていたことが判明し話題になった1。人々は、クルマづくりのプロ中のプロが「素人」のつくったものを調べることに驚く。同時に、遠い未来の話であったEVが急に身近に感じられたという。

アンビバレントな態度
このように、素人でも自動車メーカーになれるようになったのにはいろいろな理由があるが、最大の要因は動力が内燃機関から電気モーターに変わった点である。EVは内燃機関の自動車より構造もシンプルで、厄介な仕掛けなども必要ない。部品の数も従来の自動車の10の1とか5分の1などといわれ、その分だけ組み立ての手間も省ける。そうであるのは、内燃機関とその周辺は自動車メーカーが改良に改良を重ねた複雑で高度な技術だからである。ドイツでは、8気筒エンジンが1,200のパーツから構成されているのに対して、電気モーターのそれは25にすぎないという例がよく出される。

以前なら、エンジンといえば自動車の心臓部で、この部分の技術的蓄積がないままクルマづくりを始めることなど考えられなかった。ところがEVとなると事情は別で、米国テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)も素人といえばそうだし、2020年にEV市場への参入を発表した英国ダイソンも門外漢である。

自動車メーカーにとって電気モーターに転換することは、自分の長所を捨てるに等しい。そんなことを自ら望む人などいない以上、話は微妙だ。彼らはモーターショーで元気よくEVやプラグインハイブリッド車(PHV)を展示するかもしれないが、環境を重視し未来に開けていることを示すためで、ドイツの環境派からよく「イチジクの葉」と呼ばれる。またセールスも熱心でなく、注文しても来ないとか、本当に売れたら困るからなどとうわさされた。

ドイツの自動車メーカーにとって、環境派から批判され、メルケル首相をはじめ政治家から電気モーターへの転換の出遅れが心配されているのは悪い状態ではない。そうであると、EVが未来の話にとどまり購入の対象にもならず、自動車メーカーは末長くプレミアムカーとスポーツ用多目的車(SUV)のおいしい商売を続けることができる。一度登録されたEVが隣国に転売されて消えていく現象も、このようなアンビバレントな意識と関係がある2。どうやらEVでうろつく人を歓迎しない傾向があるようだ。

ドイツの政治家にとっても、EVが主力となって自動車製造の手間がかからなくなると雇用が失われるので、そんな時代が早く到来するのも考えものだ。だから彼らの方もアンビバレントで、そう考えないと多くの奇妙な現象が理解できない。例えば、充電インフラの整備こそEV普及のために重要であるのに、それをあまり重視しないかのようにEVの購入を補助するのもその例である。

2017年夏、ブリュッセルで欧州委員会が欧州連合(EU)加盟国に充電インフラの整備を義務付ける法案を提案した。例えば、建物や駐車場を造ったら必ず充電スタンドを設けなければいけないといった具合である。ところが、ドイツは欧州理事会でこの法案が成立しないよう働き掛けた。折りしも連邦議会選挙の選挙戦に入っており、メルケル首相がEV転換の必要性を強調していたので、この足並みの乱れが注目された3

2017年秋に自動車メーカーのメルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲン(VW)グループ、フォード・モーターがミュンヘンで共同出資会社「イオニティ」を立ち上げた。これは2020年までに欧州のアウトバーン(高速道路)の400カ所に急速充電スタンドを設置する事業を進めるためで、ひとまず2017年末までにドイツとオーストリアとノルウェーの20カ所に設置される予定だ。

このような自動車メーカーのアウトバーンプロジェクトと、上記の市内の充電インフラ整備を目的とする欧州委員会の提案は相互に補い合うことができ、普及に役立つことになると思われる。ドイツの自動車メーカーによると、現在1万(もしくは7,000)しかない充電スタンドが、連邦交通省の支援プログラムを受け今後1年以内に現在の3倍の3万にまで増加するそうである。

背に腹は代えられぬ
2017年12月6日にベルリンでドイツ自動車工業会(VDA)のマティアス・ヴィスマン会長の記者会見4があった。彼は、ドイツのEVについて「世界のEVとハイブリッドの技術の特許のうち34%もしくは32%がドイツに付与され、ドイツは研究と開発においても世界のトップを走っている」と強調した。

彼の年次報告には「ドイツのメーカーは2年もしくは3年以内に電気で走る乗用車のモデル数を現在の3倍の100に増大させる」とあり「その後は、5年もしくは8年以内に路上を電気で走行する乗用車のモデルが150以上に増える。すでに2019年末までにコンパクトカーからSUVまで全ての分野でEVもしくはPHVが登場する」と記されている。

どうやらドイツも「電気自動車元年」、この国の自動車業界も急旋回し、電気で走行するクルマは「イチジクの葉」ではなくなりつつあるようだ。それでは、なぜそうなったのだろうか。その背景には、二つの大きな要因があるといわれている。それは2015年に発覚したディーゼル車の排ガス不正問題、もう一つはドイツの自動車メーカーにとって重要な中国市場の動向である。中国については次回の原稿で触れることにして、今回はディーゼル車の話に限定する。

このディーゼル車の排ガス不正問題はドイツの自動車業界にとって大きなイメージダウンとなったが、ディーゼル車が駄目ならガソリン車でもいいわけで、EVには直接つながらない。事実、2017年度上半期の欧州の新車販売台数は821万台で、これまでで最も売れた2007年度の水準に迫ろうとしている。ディーゼル車は減ったが、その代わりにガソリン車が売れているからだ5。ドイツの自動車メーカーの業績は良く、例えばVWの営業利益はトヨタ自動車を上回り、半分冗談で自動車業界は「黄金時代」に差し掛かっているといわれる6

ドイツで自動車製造に従事している88万人のうち、22万人がディーゼル車関連である。仕事は少なくなっても、操業短縮などの厄介な事態に至っていないのは、現状では減り方が大きくないからだ。その理由は、2014年9月以降のディーゼル車はユーロ6基準に合格してガソリン車と同じようにクリーンだと見なされているためで、市町村への乗り入れ禁止の対象にはならない。

2016年の数字であるが、新車登録に占めるディーゼル車の割合は、アウディで66.3%、BMWで65.5%、メルセデス・ベンツで56.1%、VWで51.6%といった具合に高いだけでなく7、高級車ではこの割合が80%まで上がる。ディーゼル車の割合が高い上位2社のアウディとBMWがあるバイエルン州では、ユーロ6基準に合格したディーゼル車の購入助成まで提案されている。

日本からは見えにくいかもしれないが、ドイツではディーゼル派が強い。ディーゼル車の燃料は税制上優遇されていて、環境派がいくら批判してもガソリンより安いままである。メルケル首相をはじめドイツの政治家は、ディーゼル車を「重要な過渡期の技術」だと強調する。

ドイツの自動車メーカーには背に腹は代えられぬ事情があり、ディーゼル車と関係している。それはEUの二酸化炭素(CO2)排出量に関する規制だ。自動車メーカーは、2021年までにCO2の平均値を走行1キロメートル当たり95グラム以下に抑えなければならない。その後も2025年には2021年と比べて15%、2030年にはさらに15%減らさなければならないのである8

本来、ドイツの自動車メーカーは燃費の良いディーゼル車によってCO2排出規制に対処しようと思っていた。ディーゼル車の排ガス不正問題が起きた結果、ガソリン車のプレミアムカーやSUVばかりが売れると、この規制に合格するのは困難になる。例えば業界誌によると、2017年2月の時点でメルセデス・ベンツもBMWも走行1キロメートル当たりのCO2排出量は123グラムと124グラムで、2021年の走行1キロメートル当たり95グラムという目標には程遠い9。VWのマティアス・ミュラーCEOも「2020年からは今よりずっと多くのEVを売らないといけない。そうしなければ、CO2排出規制目標に到達できずに高額な罰金を支払うことになる」と心配している10

VDAのヴィスマン会長は(すでに引用したように)市販されるEVのモデル数の増加について「2年もしくは3年以内に」とか「5年もしくは8年以内に」などといった具合に期限を示している。そうであるのは、CO2排出規制が段階的に厳しくなるからである。このように考えると「ディーゼルスキャンダル」のために内燃機関から電気モーターに直線的に移行するのではなく、EUのCO2排出規制のために移行するのである。

ドイツの「電気自動車元年」は、これまで自動車メーカーが先延ばしにしてきたEVへの転換が前倒しされたことを政治家やメディアが騒いでいるだけで、現在、路上でEVを目にするのはまれである。目立つのは、20%近い成長率で爆発的に増加するSUVばかりだ。確かに2016年前半に0.6%であったEVのシェアが2017年には1.3%に増大したかもしれない。とはいっても、業界関係者は異口同音に本物の需要ではないという。

EVと水素自動車は政府から2,000ユーロ、PHVは1,500ユーロ、自動車メーカーからも同額の補助金が購入者に支払われ、この金額は決して少なくない。ところが、2018年初頭に担当官庁から用意された予算の10%しか使われていないと発表された。これも本物の需要がないことを反映している11。この状態も内燃機関で資金を稼ぐことにつながるので、利益の薄いEVに先行投資しなければならない自動車メーカーにとって、悪いことでないかもしれない。

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1 http://www.stuttgarter-zeitung.de/inhalt.streit-um-post-elektroauto-daimler-dementiert-spionage.3ea87be3-98db-45b0-9dc0-2291db48edce.html
2 「電気自動車が消える国-ドイツ自動車業界のこれから」2016年7月12日付掲載 ※EVとPHVの数字にはPHV、水素自動車などの次世代自動車を含む。
3 http://www.spiegel.de/wirtschaft/bundesregierung-bremst-in-bruessel-bei-elektromobilitaet-a-1163467.html
4 https://www.vda.de/de/presse/Pressemeldungen/20171206-wissmann-deutscher-pkw-markt-erreicht-hoechstes-niveau-des-jahrzehnts.html
5 http://www.manager-magazin.de/unternehmen/autoindustrie/automarkt-europa-neuzulassungen-fuer-diesel-autos-brechen-weiter-ein-a-1157699.html
6 https://heft.manager-magazin.de/MM/2017/9/152773869/
7 http://www.faz.net/aktuell/wirtschaft/wirtschaft-in-zahlen/grafik-des-tages-so-gross-ist-der-diesel-anteil-der-autohersteller-15131866.html
8 Capital 2018年1月号掲載のメルセデス・ベンツ・カーズ開発統括オラ・ケレニウス氏のインタビュー(34ページ)
9 https://www.automobilwoche.de/article/20170218/AGENTURMELDUNGEN/302189997/co-flottenwert-bmwsitzt-daimler-im-nacken
10 http://www.faz.net/aktuell/wirtschaft/automobilindustrie-vw-chef-kritisiert-branchenverband-vda-scharf-15357640.html
11 https://www.welt.de/print/die_welt/wirtschaft/article172118281/E-Praemie-fuer-Stromer-verpufft.html

M0305-0045
(2018年1月14日作成)

欧州 美濃口坦氏

電気自動車が消える国 - ドイツ自動車業界のこれから

発行:2016/07/12

概要

ドイツ政府は、電気自動車の購入に対して補助金制度を始めた。これは2020年に電気自動車100万台普及の目標を掲げながらも、一向に進展しないためである。またドイツ自動車メーカーも、ディーゼル車に対する予想以上の反発や、欧州連合(EU)のCO2排出規制強化、テスラモーターズの成功、中国市場での大気汚染を考慮して、戦略的軌道修正を迫られている。

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ドイツ自動車連盟(ADAC)はドライバーをサポートする組織で、自動車が故障して路上で立ち往生している人を支援したりするだけでなく、自動車についての情報を提供してくれる。約4,500万台の乗用車が路上を走るこの国で、1,500万人の会員を持つこの組織は自動車メーカーにとっても重要な存在である。

2016年4月にドイツ政府は、モーター式の電気自動車(以下EV)に4,000ユーロ、ガソリンエンジンとモーター併用のプラグインハイブリッド車(以下PHV)に3,000ユーロの補助金をその購入に当たって支払う制度を発表した。早速ADACは12の該当モデルを選んで試算し、その大多数が補助金をもらってもガソリン車やディーゼル車より割高になると指摘1。その最大の理由は、電気で動く自動車は価格が30%から70%も割高であるために、購入後のコストが低くてもなかなか差額を取り戻すことが容易ではないからだという。

「千里の道も一歩から」
こうして始まったEV、PHV電気自動車の購入補助金制度であるが、時期が時期だけに「ディーゼルゲート(排ガス不正スキャンダル)隠し」と勘繰る人は少なくない。ドイツの自動車メーカーは、以前は「燃費のいいディーゼルで二酸化炭素(CO2)排出を少なくして、環境に寄与している」という建前があった。ところが、今やディーゼル車に対する反発は予想以上に強い。つまりドイツ自動車業界は、電気自動車による環境寄与イメージアップを必要としているのだ。

それだけでない。2011年にメルケル首相は2020年までにドイツの電気自動車を100万台にすると発表した。当時は2,000台程度の電気自動車が走っているだけで、まさに「千里の道も一歩から」であった。だが、図表1から分かるように、5年後の2016年1月1日現在でもわずか2万5500台しか走っておらず、目標の100万台からはほど遠い。

【図表1:ドイツにおけるEV+PHVの登録台数(各年の1月1日時点)】 (単位:台)
M305-0035-1
出所:http://www.kba.de/DE/Statistik/Fahrzeuge/Bestand/FahrzeugklassenAufbauarten/fahrzeugklassen_node.htmlを基に筆者作成

次に、4,000ユーロ(EV向け)と3,000ユーロ(PHV向け)の購入補助金であるが、半分はこの制度に参加するメーカーが負担する。ドイツ政府は補助金の総額を12億ユーロに設定しているので、メーカーは6億ユーロを払うだけである。用意された補助金が全て使われると30万台から40万台の電気自動車が購入されることになる。政府はこれがきっかけになって50万台がドイツの路上を走るようになると期待している。選挙を2017年に控えている現政権は「2020年100万台」という目標に向かって動き出したという印象を演出したいのだといわれる。

それでは、この電気自動車普及支援政策は、一般にはどのように受け取られているのだろうか。購入補助金となると、プレミアムカーで潤ってきた企業の営業活動に税金が使われていることになり、反発が強い。そのために、エコノミストから「電気自動車の研究に税金を使うべきだ」とする声が上がった。研究支援は詳細が一般に知られていないため、そのような要求が出てくるのであろうが、これまでもメーカー側は研究費を支援されてきた上に、2015年にも30億ユーロもの増額をされたところだといわれる2

それに、ドイツでは電気自動車には「自分はアウディを運転し、妻にはカイエンを買い与える高所得者が、18歳になった娘にプレゼントする自動車」というイメージを持つ人もいる。今回の補助金制度が、購入補助をあまり必要としない人々を支援するだけと批判されるのもこのためだ。

また、効果を疑問視する人も多い。世界金融危機の2009年にドイツは景気回復のために新車買い替え補助金制度を設けた。当時は利用者が多かったが、それは申請をすれば得をしたからであり、ADACが批判したように今回は事情が異なる。補助の金額は低く、平均的ドイツ国民は電気自動車を購入する気になれないだろう。

奇妙な統計数字
ドイツで電気自動車が普及しない状況を詳しく分析もせずに、今回の支援に踏み切ったことを難ずる人も少なくない。その例の一つは統計の数字である。図表2は欧州諸国における2015年のEVとPHVの新規登録台数である。ドイツは4位で、フランスやスウェーデンよりも多く、電気自動車普及に熱心な印象を与えるかもしれないが、本当はそうでなく、人口が多いだけである。

【図表2:欧州諸国におけるEVとPHV新規登録台数(2015年)】
M305-0035-2
出所:https://www.acea.be/uploads/press_releases_files/AFV_registrations_Q4_2015_FINAL.PDFを基に筆者作成

図表3は、欧州諸国において電気自動車が新規登録乗用車に占める割合を示す。この図表から分かるように、ドイツは欧州主要国の中では後れを取っている。ノルウェーは「電気自動車天国」と呼ばれ、5台に1台は電気で走る車だ。この国では付加価値税やその他の税が免除されているために、電気自動車はガソリン車やディーゼル車と比べて2万ユーロほど割安になるといわれている。また、電気自動車はバス車線を走行でき、公立駐車場や一部の有料道路が無料になる。今や、ガソリンやディーゼルの乗用車と小型トラックの販売を2025年から禁止することまで検討されているほどだ3

【図表3:欧州諸国における新規登録車に占める電気自動車の割合(2015年上半期)】

M305-0035-3
出所:http://www.acea.be/uploads/press_releases_files/AFV_registrations_Q2_2015_FINAL_v2.pdf
http://www.acea.be/statistics/tag/category/by-country-registrations を基に筆者作成

ドイツの電気自動車に関するデータで一番奇怪なのは、登録された車がどんどん消えていく現象である。この事情を確認するために、図表1の登録台数と図表2の新規登録台数を以下に記す。

A:【図表1】2015年1月1日の登録台数 18,550台
B:【図表2】2015年12月末日まで新規登録台数 23,480台
C:【図表1】2016年1月1日の登録台数 25,500台

本来ならAの台数+Bの台数=Cの台数になるはずであり、上記AとBの台数を加算すると42,030台にもなる。ところが、2016年初頭の登録台数はCの25,500台だ。とすると、2015年に登録されていたうち16,530台もの電気自動車が廃車になったり、ドイツの外に出て行ったりしたと仮定しなければ説明がつかない。

ところが、多くの電気自動車は購入されてから間もないし、一度購入した自動車は長々と乗り続ける国民性を考慮すると、国内で廃車にされたとは考えにくい。ということは、大多数の自動車は外国へ転売されたことになる。事実、メーカーと関係が深いディーラーにより購入された電気自動車が、新規登録後しばらくしてから需要のあるオランダやノルウェーなどの外国に中古車として転売されていて、メーカー側もこのことを部分的に認めている4。これが登録された電気自動車がドイツから消えていき、登録台数があまり増加しない事情である。

新車を中古車として売るのは損になるが、メーカーがそうするのは欧州連合(EU)のCO2排出規制をクリアするためだ。新規登録された乗用車のCO2排出量・平均値はメーカーごとに計算される。規制は厳しくなり、2015年からは130グラム/1キロメートル以上であってはいけない。ただし、計算の仕方は政治的妥協の産物であり、重たい自動車を造るドイツメーカーが不利にならないようになっていて複雑である。また、電気自動車のように排出量が50グラム/1キロメートル未満の自動車が含まれていると「スーパークレジット」と称して、その台数が2.5倍割り増しでカウントされ、メーカー全体の平均排出量を低くすることができる。

メーカーにとって、EUのCO2排出規制をクリアできないとイメージダウンになるだけでなく、下手をすると罰金を科せられる。そうならないためには、新規登録時に自社製電気自動車数が多い方が良く、新車を中古車として売ることの損などささいなことと見なされるようだ。このような事情から、メーカーにとっての電気自動車の意味は、重たいプレミアムカーやスポーツ用多目的車(SUV)などのうまみのある商売を続ける手段でもあり、今後もそうであるという疑いが環境派から持たれている。

EUのCO2排出規制は2021年から9グラム/1キロメートルとさらに厳しくなる。よく問題にされるのは実測値とカタログ値のギャップで、一説には38%もあるとされる。これまでは、検査値を現実に近づけようとする圧力にロビー力によって対抗できたが、「ディーゼルゲート」のために難しくなった。そうなると、メーカーは今まで以上に多くの電気自動車を売らなければならない。今回の購入補助は、窮地に陥る自国自動車業界に対する援護でもあるともいえる。

過渡期の長さ
自動車業界では、これからどうなるかが見えにくいといわれる。例えば「自動運転車」がそうだ。メディアでは自動車業界の未来がかかっているかのように扱われる。ところが、フォルクスワーゲンの最高経営責任者マティアス・ミュラーが2015年まだポルシェの社長だった頃にこれを「根拠のない空騒ぎ」と呼び、留飲を下げた自動車関係者は多かったといわれる5

自動車の自動走行の技術は、厄介な倫理的・法的問題と絡むだけでなく、社会的必要性と結びついたビジネスモデルとして展開できなければいけない。そうならずに「技術のための技術」にとどまっていると、サーカスで綱渡りを見て感心しているのと変わらない。

今回の電気自動車購入補助金により、ドイツの自動車業界も燃料電池自動車(FCV)ではなく、二次電池式のEVに重点を移したと思う人がいるかもしれないが、これも今後のエネルギー政策の展開と技術の進歩を待たなければ分からない。とはいっても、バッテリーも電気モーターも水素燃料電池より身近であるために、EVが市場で増えると思われる。

電気自動車の時代が間近に迫っているという人も少なくない。彼らはいわゆる「ティッピング・ポイント」があるとし、以前携帯がスマホに取って代わられたように、EVが普及し出すと、ガソリン車もディーゼル車も見向きもされなくなるだろうと警告する6

このように考える人の多くは「テスラ旋風」にすっかり魅惑されているのかもしれない。米国生まれのテスラモーターズによるイノベーションは、技術よりもむしろ7、イメージづくりにあるといわれる。電気自動車は環境派が理想とする素朴な自然と結び付きがちだった。それを金に糸目を付けない高級車にして、シリコンバレーの成功者のイメージと組み合わせたのが決め手である。

テスラのクリーンな高級車路線は、ドイツメーカーのプレミアムカー戦略の継続を可能にするヒントにもなる。今回の購入補助対象の上限を6万ユーロに、それもネット価格にしているのも示唆的である。こうしておけば、高額な自動車も価格を柔軟に査定して、補助の対象にすることができるからであろう。

デュイスブルク・エッセン大学自動車研究センターのフェルディナント・ドゥーデンヘファー所長はプラグインハイブリッドを「袋小路の技術」として、既存自動車メーカーの起業家精神の欠如を嘆く。「ハイブリッドという生半可な道を選んだのは、彼らに市場に真の断絶的イノベーションをもたらす勇気がなかったからだ」と批判している。ハイブリッド車などは、長年お世話になったガソリンエンジンのメンツをつぶさないための、涙ぐましい延命処置ということになりそうだ。でも本当にそうなのだろうか。

電気自動車には面倒なところがある。充電の問題もその一つだ。本格的に普及し出したら、現在の技術水準では充電スタンドは渋滞になるだろう。最終的にはエネルギー政策と関連しているので、携帯電話がスマホになったという話と同一視できない。とすると、ハイブリッド車を跳び越えて電気自動車の時代にはならないようにも思われる。

どこまで本気か
ドイツでは、自動車メーカーと首相ならびに関係大臣が年に何度か会合し「自動車サミット」と呼ばれている。通常、最重要テーマはEUのCO2排出規制である。これほど特別扱いされるのは、ドイツにおいて自動車が雇用に重要とされ、就労者の7人に1人は自動車産業と関係があるからだとよくいわれる。今回の電気自動車の購入補助金制度も、このような太いパイプを通じて業界の方から働き掛けて実現した。

会合後の記者会見でメルケル首相が「中国では、スモッグのために普通の自動車が売れにくくなる」と発言したそうである。だが、中国で電気自動車が普及する理由はスモッグだけではない。政府や市町村から出される購入補助は1万ユーロをはるかに超えていて、ドイツよりも気前が良い。また、中国の大都市ではナンバープレートの取得が抽選になるが、電気自動車には特別枠があり、優先的に与えられるというメリットもある。

このような事情から、中国では電気自動車は2015年に20万台も新規登録され、登録台数は30万台に増大。いつの間にか日本を抜き、今やその登録台数40万台の第1位である米国に迫る勢いだ8。中国の自動車メーカーと提携するドイツのメーカーもある。ダイムラーはBYDと、BMWもブリリアンス・チャイナと合弁で電気自動車を造っており、中国市場にプレゼンスしていることは重視されているといえる。

現時点ではっきりしているのは、ドイツのメーカーが電気自動車を今までより真剣に考えている点である。フォルクスワーゲンは、本社のウォルフスブルグから南に50キロメートルほど離れたザルツギッターの町でエンジンを製造している。少し前の報道では、そこに110億ユーロもかけて大きな電池製造工場の建設を検討しているそうだ9

現在、電池が電気自動車の付加価値の40%も占めていることが指摘され、だからこそ「エンジンを製造できなくなったら電池製造を」という話になるのかもしれない。日本や韓国に対して技術的にすっかり出遅れているとして、ドイツの大手自動車3メーカーがジョイントベンチャーを組んで次世代型の地図サービスを導入したように、次世代電池の研究・開発にも合同で取り組むよう警告する人もいる10

ダイムラーも、ドレスデンの近くのカーメンツで電池工場を2017年までに5億ユーロをかけて拡大させると発表した11。似たような話でも、こちらの方が苦い経験に基づいており現実的である。というのは、長年ダイムラーの子会社であるリテックがここでバッテリー・セルを製造していたが、2015年末に生産を終了し、東アジアから供給されたセルを組み立てて電池をつくることにした経緯があるからだ。これは自社の自動車に使われるだけではない。再生可能エネルギーで生まれる余剰電力の蓄電装置の製造も意図されているそうだ12

電気自動車にはあまり熱心でなかったドイツの自動車メーカーも、今、少しずつ方向転換をしているように見える。近い将来「電気自動車が消える国」も、全く過去の話になるかもしれない。

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1 https://presse.adac.de/meldungen/technik/adac-autokostenvergleich-auch-mit-kaufpraemie-nur-wenige-elektroautos-rentabel.html
2 https://www.ifw-kiel.de/medien/fokus/2016/ifw-fokus-188
3 http://www.dn.no/nyheter/politikkSamfunn/2016/06/02/2144/Motor/frp-vil-fjerne-bensinbilene?_l
4 http://www.spiegel.de/auto/aktuell/elektroautos-jedes-zweite-auto-verschwindet-aus-der-statistik-a-1086729.html
5 http://www.zeit.de/mobilitaet/2015-09/roboterauto-trend-oder-hype/seite-2
6 http://www.zeit.de/mobilitaet/2013-10/elektroauto-durchbruch-trendforscher
7 http://www.slate.com/articles/business/the_juice/2016/04/tesla_s_real_innovation_is_its_business_practices_not_its_electric_cars.html
8 ZSW:Monitoring E-Mobilität 2016
9 FAZ:2016年5月28日19ページ
10 http://www.bain.de/press/press-archive/bain-analyse-zur-elektromobilitaet.aspx
11 http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM03H09_T00C16A6EAF000/
12 http://www.manager-magazin.de/unternehmen/autoindustrie/warum-daimler-jetzt-doch-eine-grosse-batteriefabrik-braucht-a-1080538.html

M305-0035
(2016年6月19日作成)