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人間関係は二の次-ドイツ人のメンタリティー(1)

  • 発行:2017/03/02

概要

職場において仕事の中身と人間関係のどちらをより重視するかは、異文化間コミュニケーションにおいて重要な尺度である。ドイツの職場では優先されるのは仕事であり、またそれと関連した事実である。そして職場とは、各自が与えられた仕事をする場所であるとされている。

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何かの拍子にドイツ人らしいとか米国人らしいとか思ったことはないだろうか。国民の中にも地域差や個人差があったり、また例外的な人もいたりするが、大多数の人は、自分の国で育まれてきた特徴ある見方や思考様式、価値観を持つ。また独特の感情の動きを示す。これらの現象は国民性とかメンタリティーなどと呼ばれる。

昔から旅行記や滞在体験記の類いは多数出版され、さまざまな国民の性格が記されてきた。例えば、明治以来日本人は欧米を訪問しいろいろな記述を残している。その多くは自国民のイメージが記述者の頭の中にあって、欧米人は自分たちと同じか、異なるかという話になる。このように自己理解から出発すると、下手をすると例えばフランス人は日本人ではないという平凡な話になりかねないし、自己理解も鏡の中の自分を見ているのに似て、うぬぼれたり卑下したりするだけに終わることが多い。

ところが、1980年代に入り、国際化やグローバリゼーションの進行とともに盛んになった異文化間コミュニケーション研究は趣を異にする。簡単に言うと、いろいろな文化を比べる尺度が意識されて、その上で異文化を理解しようとするので自国文化の理解にもつながり、一方通行でなくなる。異文化で育った同僚の行動にいら立ちを覚えるのなら、なぜ相手がそうなのかだけでなく、なぜ自分がそう反応するのかについても理解しなければいけなくなる。

国際化が日常的になった21世紀の現在では、異文化間マネジメントを必要とする企業が増え、そのための講習会やトレーニングも多数提供されている。ここでは異文化間コミュニケーション一般でなく、ドイツに、それも職場でのドイツ人に絞る。その理由は、筆者に同僚や部下、上司などとしてドイツ人と関係した経験があり、彼らのメンタリティーについて考えることが多かったからである。

無愛想な人々
職場におけるドイツ人のメンタリティーを理解するために重要な指標がある。論より証拠で、今から具体的な例を挙げて説明する。どれも外国人がよく経験することで、一番初めの例は「お土産」である。

例1:お土産 ドイツで働くスペイン人で、同僚はドイツ人。彼は故郷で休暇を過ごし、お土産にワインを持って来た。職場の同僚に「これは故郷のワインです。飲んでください」とプレゼントした。1人目の同僚は困ったような顔をし何かボソボソ言いながらも、お礼を述べた。2人目の同僚は驚いたようで「素晴らしい」と言ったものの「なぜプレゼントされるのか」と尋ねる。そのスペイン人は、同僚を喜ばせるより困らせるプレゼントはやめ、残りのワインは自宅に持ち帰った。

ドイツでは友人・家族・親戚の間でクリスマスや誕生日に贈り物をすることはあるが、職場で同僚に何かプレゼントをするのはあまり考えられないことである。また、ビジネスに関連した贈り物もあまりしない。しかし、日本人訪問者がお土産を持って来ても、上記のスペイン人の同僚のように「なぜプレゼントされるのか」などとやぼなことは言わない。それは、彼らがその贈り物を遠い日本という国の習慣だと心得ているからだ。

例2:書類 イタリアの子会社にある書類が必要になったドイツ人は、イタリア人の同僚にその入手を依頼する。しかし、3週間も経つというのにらちが明かない。業を煮やした彼はその同僚を訪れ、書類の件を尋ねた。同僚は、前日にあったドイツ対イタリアのサッカーの試合でのドイツチームの健闘をたたえている。ドイツ人が書類に固執すると、同僚は母国の子会社に電話したら事情が判明するという。そして、その同僚の誰かとの電話が始まるが、書類のことではなく、相手の家族とか友人とか、ミュンヘンのビールの話が延々と続き、最後に書類の話になったらしい。電話を終えたイタリア人の同僚は、書類は直に届くと誇らしげに語った。5分後に待ちに待った書類がファクスで到着。ドイツ人は3週間も待たされたことに今一度怒りを覚えた。

何かの事情から書類が手配できないことはあるかもしれないが、なしのつぶての3週間は弁解し難い。この例で重要なのは、ドイツ人が職場ではあまり雑談をしない点である。目の前で長々と続く雑談によって、重要な書類の件がどうして消えてしまったのかが、このドイツ人にあらためて想像できた。

次の例は、ドイツ人に文化的に近いとされる英国人の話で、電話の切り方である。

例3:電話の切り方 ドイツで働くようになった英国人は、同僚と電話するたびに違和感が残った。彼らは用件が終わると「じゃあまた」とか言って電話を切る。英国人もそれに答えて何か言おうとするのだが、電話の方はその前に切れている。彼は「ドイツ人って何と一方的な人々なのか」、また「自分が同僚から軽視されている」とも感じた。でもそのうちに、このような電話の切り方は職場では普通であることが分かる。それ以来、彼も用件が終わった途端、同僚に負けないように素早く電話を切ろうとするが、今でも必ず遅れてしまうそうだ。

贈り物も雑談も、人間関係を円滑に機能させるための潤滑油であり、職場の良い雰囲気を維持するためにも重要である。上記の英国人が違和感を覚えていたドイツ人の電話の切り方の例では、日本人のいう「気遣い」やデリカシーがないように思われる。だからといって、ドイツ人の対人関係にそのような配慮がないとは決していえない。より正確にいえば、仕事と私生活をはっきり分けて、職場の同僚にはそのような「気遣い」をしないだけである。

人間関係は職場では二の次で、優先するのは仕事であり、またそれと関連した事実である。職場とは、各自が与えられた仕事をする場所であるとされている。自分がしていることが大きなプロジェクト全体の一部であるという意識は、同僚や上司との人間関係によってではなく、自分に負わされた課題がはっきりしていることによって生まれる。その結果、個々の人々は隣の人との境界線を気にすることなく、自分の仕事に専心できる。こう考えると、ドイツの職場はチームワークでなく、各自が孤独な作業をしていることになる。

次の例もこのようなドイツの事情を示唆する。

例4:休日出勤 ドイツの企業で管理職に就く英国人エンジニアは、グループが引き受けた仕事が期日に間に合わなくなったので、数人のドイツ人部下に土曜日に出勤してもらうことにした(ちなみに、この会社では休日である土曜日勤務の待遇について取り決めがある)。週明けにその英国人は土曜日に働いた部下を訪れ、感謝を表明し、仕事の出来栄えを賞賛し、グループが責任を果たすことができたと報告した。ところが、それに対して部下の方は驚き、戸惑っているようであった。グループの成功を上司と一緒に喜ぶような雰囲気はなかった。

上記の例のドイツ人部下にとって、土曜日勤務の待遇についての取り決めがある以上、当然のことをしただけで、上司のためにしたわけでない。そう考えるから、なぜ上司から感謝されるのかぴんとこないことになる。このようなドイツの職場は日本の職場とは対照的である。周知のように日本には「お疲れさま」「ご苦労さま」「頑張っているね」「助かっているよ」などのねぎらいの言葉が多い。ドイツ人も日本人も勤勉だといわれるが、現象面では同じであっても、ドイツ人と異なり、日本人の方は人間関係の上に乗っかって頑張っているともいえる。

次の例は筆者が個人的に知るケースだ。

例5:上司より先に帰れない ある日本人女性は日本の代理店からドイツの本社に転勤し、1年ほど働いてドイツのシステムを勉強して帰国後は責任ある任務に就くことが期待されていた。最初の数カ月間、彼女は営業部長のアシスタントとして配置される。しばらくして彼女の上司から筆者に連絡がある。彼は、その日本人女性は理解も早く有能であるが、自分の仕事を片付けた後も会社に残っているという。彼は、彼女がミュンヘンという魅力的な町に住む以上、会社にばかりいるのが残念で、そのことを何度か言ったのだが理解されないという。筆者と話した彼女は、上司が働いているのに自分だけ先に帰ることなどできないと説明した。それに対して筆者は、ドイツでは、工場でなくオフィスで働いている人には、自分の仕事が終わったかどうかを自分で判断する能力が期待されているのだと説明した。

日本の組織は世界的に見ても勤務時間が長いといわれるが、それはドイツとは反対に人間関係が重要で、同僚や上司が働いていると帰りにくいという雰囲気があるためだと思われる。「お先に失礼します」と声を掛けて帰るのがマナーとされているが、この表現そのものが先に帰ることが礼に失することを意味する。

重要なのは仕事の中身
ドイツでは職場の人間関係より優先するのは仕事であり、またそれと関係した事実であると述べたが、誤解を避けるために強調すると、ここで重要な点は職場の人間関係と比較してということである。というのは、言うまでもないことだが、英国であろうが日本であろうが、どこの国でも仕事は重要だからである。

上司が職場の雰囲気を良くするために貢献したというのは、褒め言葉としてドイツではあまり耳にしない。仕事をするモチベーションが職場での良好な人間関係とあまり関係がないと考えられているためである。そんなことよりも、仕事の分担と課題を明確にすることが上司に期待される。この点がうまくいっていないと、ドイツ人は自分の仕事に集中できないからである。

ドイツの職場では人間関係より優先される仕事であるが、開発部で働くエンジニアにとってそれは技術的問題の解決であり、営業スタッフにとっては売り上げを拡大することであったり、仕事に関連した事実の知識であり、またノウハウである。大切なのは仕事の内容である。これに関して重要とされるのは、専門的知識である。そして、専門的知識は大学で身に付けられると思われている。だからこそ、この国の大学での就学期間は隣国と比べて長い。また今でも博士号が重視される。

ドイツでは仕事に関連した議論も盛んで論拠を挙げて説得しようとする。内容中心で人間関係が二次的であるために、相手が目上であるからといって遠慮しない。かなりアグレッシブになり、(本人はあまり意識しないで)議論する相手を傷つけてしまうこともある。このような感情面に対してセンシブルでない。また自分の知識をひけらかす人もいる。北欧出身者でドイツの職場でのこのような角の突き合いが嫌になって辞め、帰国した人を筆者は個人的に知っている。

仕事の内容が中心で人間関係が二次的であるために、すでに述べたように雑談もあまりしないし、電話の切り方も早い。このような事情から、仕事の話をするときにはあまり長い前置きはしないで、単刀直入に核心に入る方がよいとされる。スポーツは盛んだが、これは明らかに私生活に属する。仕事と私的領域は区別されるので、彼らには、スポーツをしながら商談を忘れずに世間話をするなどといった器用なことはできない。そのために、ドイツではビジネスパーソンの間でゴルフの習慣が広まらない。

書類主義
ここまで職場での例を挙げて、ドイツでは仕事に関連した事実尊重主義が強く、そのとき人間関係が二次的であることを説明してきた。そのために、この性格が職場の中だけで見られると思われたかもしれないが、それは誤解で、本当は彼らの仕事の仕方、ビジネス全般の在り方に妥当する。

人間関係重視主義の文化圏の出身者は、ドイツでも自国と同じようにコネが重要だと思う傾向がある。その結果、新たな人間関係を構築する際に第三者に当たる紹介者を見つけることが重要になる。ところが、この国でビジネスをした人はどこかの企業に自社製品をオファーする場合、コネがなくても相手にしてくれることを経験した人も少なからずいるはずである。質や価格、納期の順守といった要件で納得してもらえれば商談が成立するのである。

人間関係でなく仕事の内容を優先する以上、口頭で伝達されたことと書類の形で伝えられたことの間には差がないことになる。それどころか、ドイツでは書類の方が証拠として有力になることもあって重要視される。ということは、この国では当事者から会って話を聞かなくても、書かれたものを落ち着いて分析しながら読む方がよく理解でき、ビジネスパートナーの提案の短所も長所も分かると考えていることになる。ところが、人間関係重視の文化では、会って直接話すことを重要視するだけでなく、会えば会うほど相手との人間関係が深まり、ビジネスチャンスも増大すると思われている。

このように文化が異なると、時には摩擦も避けられないだろう。というのはドイツ側は多くの場合、直接会う必要があるかないかを気にする。それは、書類を読んでいるだけではよく理解できないとか、書類の中で考慮されていない問題点などがあって、文書の交換だけでは煩雑過ぎて解明できないなどというような場合でないといけない。そうでないと、ドイツ側の担当者が直接会って話すことを時間の無駄だと思うことも少なくないからである。

もっと厄介な問題は、人間関係重視の文化では組織内の役職が大きな役割を演じることだ。反対に、ドイツのような内容中心主義の組織では専門的知識が重要である。そのような専門家は役職に就いていないことも多く、それでも信頼されていて重要な決断を下す権限を与えられている。その一方で、役職に就いている人の中には専門的知識を持っていない人も少なくない。

人間関係重視文化型の組織は、ビジネスパートナーを重視していることを示すために役職の高い人を派遣する傾向がある。それに対してドイツ側も似たような役職の人を出席させなければいけないと考えるが、これは厄介なことが多い。ドイツの方は専門性を重視し、その結果、ビジネスの上で重要な決断が下されると思っている以上、このような形式的な側面にエネルギーと時間を取られることに不満を持つ場合がある。

これまで書いたように、文化の違いをある程度まで知っていると感情的な行き違いや時間、リソースの無駄遣いを避けることができる。

仕事とそれに関連した用件の方が重要か、それとも人間関係の方が重要かは異文化間コミュニケーションにおいては重要な尺度である。前者を重視する文化の国・地域はドイツだけでない。ある異文化間コミュニケーションの研究者によると、北欧、フランス、オーストリア、スイス、英国、北米、オーストラリアがこの文化圏に属する。これまでに挙げた例から分かるように、ドイツはこのタイプの文化の特徴が特にはっきりした国である。

反対に人間関係が優先される文化の国・地域は、アジア諸国、アラブ諸国、インド、南ヨーロッパ諸国、東欧圏、特にロシアがよく挙げられる。

M305-0039
(2017年2月20日作成)