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ドイツ総選挙とユーロ圏の今後(2)

概要

ユーロ危機はまだ終わっていない。南欧を中心とした経済は低迷したままで、欧州統合に背を向ける人々が増加している。このため、フランスのマクロン大統領は欧州連合(EU)改革を提案したが、ドイツ側から見て役立つようには見えない。一方、ドイツの総選挙で欧州統合への批判的勢力が強くなったことは、メルケル首相が周辺国からの要求を断るのに役立つかもしれない。

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ユーロ危機の構造
ユーロ危機には二つの側面がある。その一つ目は過剰債務の問題で、多くの国で見られることである。二つ目は、共通通貨ユーロを持つことから生まれた加盟国間の不均衡問題である。この結果、経常収支がアンバランスになるだけでなく、競争力の格差が生まれた。ユーロ導入以前なら、自国の競争力が低くなったら自国通貨を切り下げることで対応できたが、それが不可能になった。よく出される例は、ギリシャがオランダで栽培されたトマトを輸入するようになったことで、自国のトマトの販売競争力が失われたという話である。言うまでもないが、現実には、過剰債務と競争力格差の問題は複雑に絡み合っている。

過剰債務については、リラ、エスクード、ドラクマ、ペセタといった南欧諸国の通貨は、ユーロ導入以前はインフレ気味で、そのリスク防止のために金利も高かった。1995年マドリード欧州理事会で、利子が低い上、何でも買えるハードカレンシー「ユーロ」の名称が決まる(ユーロの導入は1999年)。南欧諸国にとってこれは夢のような話で、財布のひもも緩むしかない。また、外部の投資家にとってこれらの国に対する投資リスクが低くなったのも同然で、これを機に投資ブームに沸き、北から南へ資金が流れた。

私事で恐縮であるが、筆者はユーロ導入後の2000年にバカンスでスペインのアリカンテへ行った。海岸の近くで、雨があまり降らずドイツ人が好みそうな場所であった。近くをドライブすると、丘に無数の住宅が途中まで建設されたままほったらかしになっていた。この丘ははげ山で、給水などのインフラ整備も高くなりそうであったため「バブル」という言葉が一瞬脳裏をかすめた。また当時レストランへ行くと、以前と比べて料金が高くなっているのも気になった。

その後、2007年の米国発金融危機を受け、南欧諸国に資金が流れ込まなくなる。人々が不安の連鎖反応でリスクに特に敏感になったからであるが、これはそれまでのバブルがはじけたことになる。ユーロ危機は最初の震源地がギリシャであったためにソブリン危機とも呼ばれるが、民間の債務過剰も深刻である。下の図表36はユーロ圏諸国のバランスシートに占める不良債権の割合を示す。2013年以降、アイルランド、スロベニア、スペインは不良債権を減らすことができたのに対して、キプロス、ギリシャ、ポルトガル、イタリアの4カ国では前進が見られないとされている。

【図表3:ユーロ圏諸国のバランスシートに占める不良債権の割合】
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上記の数字を見ていてもぴんとこないのは、フランスに次ぐ経済大国イタリアの深刻度のためかもしれない。欧州連合(EU)全体の3分の1に相当する3,600億ユーロに及ぶ焦げ付き債権を抱えているとされている7。これはイタリアの国内総生産(GDP)の20%に相当する。2017年夏も二つの銀行が再建不能とされて破綻処理されたが、これは氷山の一角にすぎないと心配する人も多い8。焦げ付き債権が多いと、中央銀行がゼロ金利にしても資金が実体経済に回らないので、経済的停滞の原因になる。

次は国家の過剰債務であるが、欧州中央銀行(ECB)の量的緩和政策(QE)が実施されている。これは、2015年3月から2017年末まで毎月800億ユーロもしくは600億ユーロの割合で総額2兆3000億ユーロに及ぶ債券を購入するプログラムである。このうち1兆8000億ユーロはユーロ加盟国の国債の購入に充てられている。ただし、加盟国の中央銀行がそれぞれ自国の国債の購入を担当する仕組みになっている。

こうして国債も自国の中央銀行が持っている限り、返せとか利子を払えとか面倒なことは言われないので、問題は消えてしまったことになるのも同然といえる。だからといって、問題が解決したかどうかについて疑い持つ人は多い。

競争力の欠如
2番目の不均衡問題は、実体経済と関連するので知らん顔では済まされない。すでに述べたように、1995年ごろから2007年までの間にユーロ加盟周辺国で投資ブームからバブルになり、物価も賃金も上昇してこれらの国は競争力を失ってしまった。

【図表4:ユーロ圏諸国の物価の変遷(2008年9月=100)】
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この事情を示すためによく引用されるのは、上の図表4の数字である9。資金の流入が始まった2008年9月のリーマンショック時を100にとして、1995年から2016年までのユーロ圏諸国の物価の変遷を表示したものである。バブルで上昇した物価がリーマンショック以降、それぞれマイナス7%、マイナス11%、マイナス1%といった具合に下がった。とはいっても、これらの加盟国が競争力を持つためには、米国のゴールドマン・サックスの計算によるともっと下がらなければいけない。その値がマイナス34%、マイナス30%、マイナス27%、マイナス11%である。

言うまでもなく、一度上がった収入を下げることなど選挙があって民意が尊重される国では実行困難である。共通通貨導入以前であれば、これらの国は自国通貨のレートを下げれば自国に競争力が生まれたし、外国からの製品もサービスも高くなって国民は買わなくなるので、自国経済も対抗できた。ところが、何でも買えることのできるハードカレンシーを手渡された以上、自国で抑制することなど本当に難しい。

欧州では古くから、共通通貨のレートの上げ下げのメカニズムの意味についてよく議論された。このメカニズムがなくなることは解決困難な問題らしく、1980年代後半の議論では「共通通貨は、政治や経済のいろいろな分野での統合が進展して、加盟国間の不均衡もなくなった統合過程の最後にその努力を報いるための冠とし実現される」ことになっていた。ということは、フランスのミッテラン首相とドイツのコール首相(いずれも当時)の共通通貨導入・合意は見切り発車だったことになる。そこでいろいろなルールをつくったが、守られなかった。

ドイツ・フランスの相違
最近のEU加盟国での選挙結果が示すように、英国だけでなくその他の国でも欧州統合に背を向ける人々が少なくない。このような潮流に直面して、EUならびにユーロ圏についていろいろな改革が提案されている。フランスのマクロン大統領のEU改革案もその一つである。彼が若くて、ドイツと並ぶ重要な加盟国の元首でスター的存在であるために、メディアからは「欧州に新たな息吹をもたらす」と注目される。

フランスのマクロン大統領の提案は、難民対策、共通の介入軍の創設、テロ対策、デジタル化での協力強化といった具合に多岐にわたる。ユーロ圏については、彼は(EU全体とは別に)固有の予算を設けて、それを管理する財務大臣を置くことを、さらにその活動を民主的にコントロールするためにユーロ圏だけの議会の創設までも提案している。ドイツ側は多くの場合、このような話を聞くと、フランスの政治指導者層の発想と自分たちの考え方の間に横たわる大きな相違を感じるという。

加盟国の不良債権の問題だが、該当国に担当する役所があるし、問題が国境を越える場合にはECBの所轄下になる。加盟国に競争力が欠けていたり、経済活動が不活発であったりすることも現場に近い具体的な問題で、ユーロ圏に大臣のポストを設けたり、予算を設けたりすることによって解決できることなどはドイツ側には想像できないようだ(冷戦時代のことだが、西ドイツのある政治家が、筆者に欧州統合はフランスの政治家の天下り先を確保するためにあるのだと語ったことがある)。

欧州統合のパートナーとしてのフランスは、多くのドイツ人の目には、中央集権が強く、グランゼコール出身のエリート行政官が仕切る国であると認識されている。国家が主導するという発想が強く、だからこそ、よく指摘されるように対GDPに占める国家支出はフランスでは約57%にも及ぶ。ちなみに、ドイツは44.3%、日本は36.82%、米国は35.23%だ10。このような国家尊重主義のためか、EUに、特にユーロ圏に国家的性格を付与したいという願望が強いようにも見える。

ユーロ圏の在り方について、昔からフランスや南欧の周辺諸国が期待するのは一つの国家に似た連帯責任体制になることで、その結果は、経済的に強者が弱者を支援しなければいけないということになる。フランスのマクロン大統領は大統領選挙中のインタビューで「ドイツはユーロ圏の不均衡を利用して貿易収支の巨大な黒字を実現している。これはドイツ経済にとってもユーロ圏経済にとってもよくない。この点で埋め合わせがないといけない」と語っている11。「もうけた以上、少しは出せ」という考えで、だからこそ、ユーロ圏の予算とか財務大臣とかいった発想になるようだ。

似たような話だが、マクロン大統領は社会福祉に関して、加盟国が失業保険を共同で給付することを提案している。このような提案もドイツ側を驚かせたようだ。というのは、フランスもドイツに次ぐ経済大国であるので自国も費用を負担することになる。ところが、欧州統合となると(理想に燃えるせいか)自国の負担金のことを忘れてしまうように見えるからだ。

ドイツは、加盟国が独立国家で自己責任を前提として共通通貨導入に賛成した。だからこそ、ユーロ圏を連帯責任体制にすることを拒み続けている。そのためにユーロ圏共同債の発行にも反対である。これがドイツの公式の立場であるが、2010年にギリシャ支援を行ってから、裏口から連帯責任体制が入り込んでしまったといわれる。

その一つの例は、ECBが危機に陥った加盟国に便宜を図るようになったことだ。この結果、筆者が「欧州の「打ち出の小づち」、ターゲット2問題について(2)」(2013年1月28日付掲載)の中で記したように、加盟国の中央銀行はユーロを発行できるので「打ち出の小づち」を手にしているのと同じことになった。ということは、問題は資金が南欧の周辺国に回らないことでなく、そこに投下されないで、ドイツなど北の国々に戻ってきて不動産や株に投下されてバブルを引き起こすことである。ということは「不均衡の埋め合わせをする」ために予算を設けるのも奇妙な話である。

ユーロ圏には「ターゲット2」と呼ばれる決済システムがあるが、現在、南欧周辺国に対するドイツの債権残高は8,500億ユーロにも及ぶ。この巨大な額はドイツから潤沢な資金が流れ込んでいることを意味する。同時にターゲット2の債権残高は「欧州の「打ち出の小づち」、ターゲット2問題について(2)」(2013年1月28日付掲載)で記したように、ターゲット2の債務残高のある加盟国がユーロ圏から脱退したら戻ってこないことでもある。ということは、ドイツは南欧周辺国からの要求に対して譲歩しなければいけない立場にあることになる。

この事情を考慮すると、ドイツではユーロ圏における連帯責任方式の拡大に批判的な自由民主党(FDP)と連立を組み、ユーロ救済に懐疑的なドイツのための選択肢(AfD)が議会にいることは、メルケル首相にとって南欧周辺国からの要求を断りやすい状況が生まれたという意味で頼もしいかもしれない。

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6 Bankenunion:Wie stabil sind Europas Banken?
http://www.delorsinstitut.de/2015/wp-content/uploads/2017/06/170627_JDI_Bankenunion_Web_A4_einzeln.pdf 4ページ
7 http://derstandard.at/2000040798352/Banken-ziehen-Italien-in-die-Tiefe
8 https://jp.reuters.com/article/eurozone-banks-italy-idJPL4N1K33RF
9 ifo研究所・前所長Hans-Werner Sinn – Die Fiskalpolitik der EZB – Wie geht es weiter in Europa?(2017年10月12日にミュンヘンで行われた講演)
10 https://de.statista.com/statistik/daten/studie/329446/umfrage/staatsquoten-in-industrie-und-schwellenlaendern/
11 https://www.morgenpost.de/politik/article210281479/So-denkt-Emmanuel-Macron-ueber-Deutschland-die-EU-und-Trump.html

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(2017年11月1日作成)

欧州 美濃口坦氏

ドイツ総選挙とユーロ圏の今後(1)

概要

ユーロ危機など過去のことだと思う人もいるかもしれない。そうであるのは、定期的に景気のいいニュースが流れるからだが、ユーロ危機はまだ終わっていない。南欧を中心とした経済は低迷したままである。またユーロ圏では、どの国の国民投票においてもEU離脱賛成者の割合が高い。「ポピュリズム」という言葉は、この現象を見ないで済ませるための気休めかもしれない。

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2017年9月24日にドイツの連邦議会選挙があった。それまで大連立を組んできたメルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は32.9%に、連立パートナーの社会民主党(SPD)も20.5%にという具合に大幅に得票率を減らした。SPDは野党になると明言しているので、メルケル首相には連立相手としては自由主義経済の自由民主党(FDP)と環境政党・緑の党しか残されていない。

今回の選挙の勝者は、ドイツのための選択肢(AfD)である。この右翼政党は12.6%も票を得て連邦議会に初めて登場するだけでなく、94議席も獲得し、国政レベルで第3党に台頭した。この躍進は2年前にメルケル首相が100万人以上の「難民」を受け入れたことに不満を持つ人が多いからである。どの政党も難民受け入れに表立って反対しなかった以上、抗議表示をする選挙民にはこの党しか残っていなかった。

「不自然なコンセンサス」
AfDというと人種の不当な扱いや反イスラム感情をあおる「右翼ポピュリズム」とされるが、これは中身を見ないレッテル貼りのきらいがある。この点についてスイスの新聞は次のように記している。

《AfDに人々が投票したのはメルケル首相の難民政策のためだけではない。この政党が誕生したのはこの国の政治文化に不自然なコンセンサスがあるからで、これは欧州連合(EU)やユーロを論じないことが賢明とされている点だ。AfDはこの思い込みをぐらつかせて、他の政党が立ち去り、空っぽにした政治空間に入り込んだ》(ノイエツリュヒャーツァイトゥング、2017年9月24日付。ベルリン発・ベネディクト・ネッフ1

ドイツを訪れたフランス人は、マクロン大統領がEUやユーロ圏の改革を熱心に提案しているのにドイツの選挙戦では問題にされないことに驚いていた。これも、この国の「政治文化の不自然なコンセンサス」を示す。筆者は今回いろいろな町へ行き選挙戦を観察する機会があったが、そういえば欧州をテーマにするポスターを見なかった。

M0304-0020-11左の写真は、夜遅くベルリンで見つけたAfDの電子選挙ポスターである(筆者撮影)。「私たちが喜んで良い暮らしをするドイツのために」という笑顔のメルケル首相のポスターと、ドイツの自動車メーカーの広告と、波間に沈みかかっている1ユーロ硬貨のポスターが交代する。AfDの文句は「『ユーロ救済?』、そのために何でもするのには反対」である。これは2012年に「ユーロ救済のために何でもする」と発言したマリオ・ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁に対する反対表明だ。

AfDの紙のポスターは破られることが多く、それを防ぐために手の届かない高い所に貼られていたのが思い出された。そして、抗議政党でライバルの左翼党のポスターが多い東ベルリンの近くで、高価であっても剥ぎ取られない媒体に踏み切った思惑が想像された。

上記のスイスの新聞が指摘する「不自然なコンセンサス」が本格的になるのは、危機に陥ったユーロ加盟国の救済が始まった2010年頃からである。当時、メルケル首相はドイツに支援以外の「選択肢がない」と批判に口封じをし、その後、支援は超党派で進行し、主要メディアも同調。彼女こそ、AfDの名付け親である。

「EUやユーロを論じない」政治文化は、自国民を「過去」と関連して隣国に対して反発させないようにするための配慮でもある。というのは、欧州共通通貨は、ベルリンの壁崩壊後にドイツのコール首相がフランスのミッテラン大統領(いずれも当時)にドイツ統一を認めてもらうためにその導入要求に従ったという経緯がある2。当時、国民の大多数は気が進まなかったし、多数の経済学者もその無謀に対し警告した。そして導入後、数年でユーロ危機が始まる。恐れていたことが目の前で進行するのに対して無力感にさいなまれるだけであったために、このテーマに耳をふさぐ人も多い。

ユーロ圏の現状
ユーロ危機など過去のことだと思う人もいるかもしれない。そうであるのは、定期的に景気のいいニュースが流れるからだ。例えば、2017年夏のドイツの経済誌の報道である3。大見出しは「ユーロ圏は世界経済の希望の星」で、小見出しは「病人からパワフルマンへ」。すぐ下にマリオ・ドラギECB総裁の写真がある。こんな見出しになったのは、同年第2四半期に、ユーロ圏の国内総生産(GDP)成長率が米国の0.5%を上回る0.6%を記録したからである。

【図表1:ユーロ圏諸国の製造業・生産量の推移】
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上の図表1はIfo経済研究所の資料を参考に筆者が作成したものである。寝たきりの病人が起き上がっただけのようなものなのに「パワフルマン」というのは誇張といえる。というのは、財政赤字を増大させて公務員を増やせばGDPを膨らませるのは可能だからである。ユーロ圏の実情を知ろうとすれば、別の数字を持ち出さなければならない。政府は工場までつくることはあまりないので、製造業の生産量の推移に注目する。ギリシャのような小さな国にも製造業があり、特定の需要をカバーしていた。需要が回復すれば、下がっていた生産量も回復するはずだ。図表1は、金融危機で製造業の生産量が下がる前の2008年を100としてその推移を示している。

図表1から分かるように、2008年に下がった生産量はアイルランドでは元気良く回復・上昇している。ドイツとオーストリアでは辛うじて回復できたが、ポルトガル、フランス、イタリア、ギリシャ、スペインは低迷したままである。このやりきれない状態は、ギリシャ約43%、スペイン約38%、イタリア約35%、ポルトガル約25%、フランス約23%といった若年層の失業率の高さにも反映されている4

若い人々の高失業率も2、3年で終わるなら我慢しようがあるが、この状態が7年も8年も続くのは厳しい。これはごまかしようがない実体経済の問題で、また構造的な問題であるために今後改善の見込みがあまりないともいえる。政治的大義名分として進められてきた欧州統合に背を向ける人々が増えるのも当然であろう。

【図表2:ユーロ圏諸国のEU観】
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図表2は、2016年に主要国で実施された世論調査である5。グラフの青い棒は、自国のEU加盟の是非を問う国民投票を望む人々の割合を示す。グラフの赤い棒はその国民投票におけるEU離脱賛成者の割合で、イタリアやフランスでEU離脱賛成者がそれぞれ48%、41%に及ぶ。これは深刻な事態である。

どの国の国民投票においてもEU離脱賛成者の割合が高い。これは欧州統合が「政治的エリート」と呼ばれる人々によって、それも国民と無関係に進められてきて「民主主義的でない」と思う人が多いからだ。失業率も低く、ユーロ圏の勝者とされるドイツでは国民投票は制度上不可能であるが、それでもEU離脱を望む人が4割もいるのもこのためである。「ポピュリズム」という言葉は、この現象を見ないで済ませるための気休めかもしれない。

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1 https://www.nzz.ch/international/ein-wilder-haufen-zieht-in-den-bundestag-ld.1318236
2 http://www.spiegel.de/spiegel/print/d-73989788.html
3 http://www.manager-magazin.de/politik/konjunktur/bip-wachstum-in-euro-zone-beschleunigt-sich-a-1160907.html
4 https://de.statista.com/statistik/daten/studie/74795/umfrage/jugendarbeitslosigkeit-in-europa/
5 https://qz.com/679354/nearly-half-of-europeans-want-their-own-referendum-on-staying-in-the-eu/

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(2017年11月1日作成)

欧州 美濃口坦氏

[第209回] 保守派が論じる「メルケルとは何か」       

Photo: Nishida Hiroki

アンゲラ・メルケルは2005年以来ドイツ首相を務めている。9月24日に連邦議会選挙があるが、いっこうに盛り上がらないのは、彼女が勝つに決まっているからだ。経済紙記者のフィリップ・プリッケルトがまとめた『Merkel(メルケル)』では、彼女と同じ保守党に近い22人の学者や文筆家が12年間のこれまでの政治を批判・総括。彼女の政治スタイルについての寄稿は面白い。

メルケル首相は物理学者だったことから冷静で分析的で「結末から考える」人だと思われている。まずは望ましい「結果」を想定し、そこから遡ってその時々に適切な決断を下すということだが、本当のメルケルはその正反対という。

一度は前政権が歩んでいた脱原発の道から逸脱して稼働期間を延長したが、その直後に日本で原発事故があると、脱原発に回帰した。ユーロ危機でも共通通貨導入時の本来の姿に戻そうとするのか、新しい在り方を目指すのか、「結末」がはっきりしないままメルケルは流されているだけ。2年前の「難民歓迎」も「結末」の姿も考えず、それ以来ドイツは隣国にそっぽを向かれたままだ。

政治家としてデビューした頃、彼女はどんな信念をもっているのか得体が知れないといわれた。これは、共産党独裁の東独で育ったため、個人のイデオロギーを目立たせない習慣が身に染みついているからだと説明される。彼女が統一後に学んだのは、「人気があり多くの票を集めることこそ、政治権力の源泉」という教訓だ。政治の内容自体はメルケル首相にとって二次的で、有権者の支持を得るためであれば、社民党や緑の党の政策もどんどん取り入れていく。

こうなると、これらの政党もメルケル批判を展開できない。ある寄稿者は、「メルケルが党首のキリスト教民主同盟は、他の党と区別できなくなり、彼女の後援会に成り下がった」と憤慨する。だが、野党に有力な首相候補者がいない以上、選挙民も「メルケルさん以外に誰も思い浮かばない」現状になる。

こうして野党も影が薄くなり、一極集中によってメディアも弱腰で迎合的になり、以前あった政策論争もなくなってしまった。メルケル政権12年間でドイツの政治の在り方も変わったようだ。

シュピーゲル紙のベストセラーリストを見ると6位にロルフ・ペーター・ジーフェアレの『Finis Germania(フィニス・ゲルマニア ドイツよ、お前は没落する』というラテン語タイトルの本がある。

縁起の悪い題名の本が登場したと驚いていると、翌週から本書はリストから姿を消した。調べてみると、シュピーゲル紙が本書の反ユダヤ主義的内容を理由に、リストから外してしまったことが判明。これは前代未聞で、この処置の是非を巡って論議が起きている。

本書の著者ジーフェアレは環境破壊とその根底にある思想を歴史的に跡づけた著名な歴史家で、ドイツやスイスの大学教授を歴任。昨年亡くなった。「ドイツよ、お前は没落する」は104ページの哲学的評論で、「アウシュビッツ」観や「過去の克服」をテーマにする。

本書を反ユダヤ主義的だとする人々は、本文中に「アウシュビッツは神話だ」という一節を見つけ、刑法違反の「アウシュビッツの否認」に近づくとする。一方で、著者がいう「神話」とは、ユダヤ人虐殺の事実を否認するのでなく、それをいかに受容するかを論じているに過ぎないと、弁護する人もいた。

NYタイムズのクリストファー・コールドウェル記者は、本書を読んで「反ユダヤ主義的でない」とするだけでなく、著者の交友関係まで調べて、そんな人でなかったと判定した。だが、外国人のこのような主張は、国内で論争を続ける人々にとっては重要ではないようだ。

ベストセラーのリストから除かれたため、本書がその後、どのくらい売れたかわからない。アマゾンのリストではしばらく1位で、1時間に250冊のペースで売れたそうだ。

本書は哲学的で地味な本である。リストからはずしたことはドイツ社会の右傾化を警戒するからであったのに、話題になり売れたのは皮肉。でもこれまでよくあったことである。

『Heilen mit der Kraft der Natur(自然の力で治療する)』の著者の アンドレアス・ミヒャルゼンは3代目の医者だ。但しおじいさんもお父さんもドイツではクナイプ療法とよばれる水治療の医者で、3代目も自然療法の熱烈な実践者。同時にフンボルト大学シャリテ病院の研究者でもある。

著者によると、近代医学は伝染病や事故などの救急ケースや手術に関しては実力を発揮する。でも今私たちの多くが患う生活習慣病やがんなどの病気に対しては効果が限定されているそうだ。ヒルに吸血させて関節症の痛みを除去したり、瀉血(しゃけつ)と称して血液を排出させたりする療法は、現代医学からみれば噴飯ものだろう。しかし、これらの治療法を小説の中で知るだけだった私には、おもしろかった。

Minoguchi Tan

翻訳家兼ライター。1974年にミュンヘンに移住。80年から約20年、書店を経営。共訳書にアイベスフェルト『比較行動学』(みすず書房)。

 


ドイツのベストセラー(ノンフィクション部門)

7月15日付Der Spiegel紙より


※ 『』内の書名は邦題(出版社)

1. Heilen mit der Kraft der Natur

Andreas Michalsen アンドレアス・ミヒャルゼン

ベルリン・シャリテ病院教授が語る自然療法の理論と実践。

2. Wunder wirken Wunder

Eckart von Hirschhausen エッカルト・フォン・ヒルシュハウゼン

医者の著者が「病は気から」の微妙な世界をユーモラスに扱う。

3. Das geheime Leben der Bäume

『樹木たちの知られざる世界』(早川書房)

Peter Wohlleben ペーター・ヴォールレーベン

自然林を理想とする著者が生きている樹木について語る。

4. Homo Deus

Yuval Noah Harari ユヴァル・ノア・ハラリ

イスラエルの歴史学者・ベストセラー「サピエンス全史」の続編。

5. Alexander von Humboldt und die Erfindung der Natur

Andrea Wulf アンドレア・ヴルフ

探検家、地理学者のアレクサンダー・フォン・フンボルトの伝記。

6. Finis Germania

Rolf Peter Sieferle ロルフ・ペーター・ジーフェアレ

メディアで袋叩きにあった独歴史家の「過去の克服」論。

7. Penguin Bloom

Cameron Bloom&Bradley Trevor Greive キャメロン・ブルーム、ブラッドレー・トレバー・グライブ

悲劇的事故で崩壊寸前の家族を救ってくれた小さな鳥。

8. Wer wir waren

Roger Willemsen ローガー・ヴィレムゼン

未来の世代の目に映る私たち。昨年早死にした著作家の遺著。

9. Merkel

Philip Plickert フィリップ・プリッケルト

四期目目前にするメルケル首相の政治を批判的に総括。

10. Keine Zeit für Arschlöcher

Horst Lichter ホルスト・リヒター

テレビ料理番組シェフの自伝で、人生論を展開する。

メルケル首相とマキャベリ - ユーロ圏の今後

発行:2015/03/10

概要

ドイツを代表する社会学者のウルリッヒ・ベック氏によると、メルケル首相はルネサンス期の思想家マキャベリに似て権力を重要視する政治家で、彼女のユーロ救済は「立場をはっきりさせない」「じらし戦術」「適性試験」「ネオリベラリズム」の四原則に従って進んでいるそうだ。ベック氏のメルケル論はユーロ圏の今後を考える上で面白い。

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2015年の正月、インターネットの世界をあちこち見ていると、ドイツを代表する社会学者ウルリッヒ・ベック氏が亡くなったというニュースが目に飛び込んできた。彼の本は世界中で読まれ、日本語にも訳されている。その仕事はリスク論、グローバリゼーション、欧州統合、雇用の未来、男女関係、近代化など多岐にわたる。
彼は会うと時間を惜しまず話してくれた。彼は「象牙の塔」(学者など現実離れした研究生活や態度、研究室などを指す)の住人ではなく、新聞や雑誌で時事問題に発言し、サービス精神が旺盛で、特に表現が面白かった。これから彼の発言が読めなくなると思うと少し寂しくなった。

最近、私は偶然、メルケル首相のユーロ救済政策に関するベック氏のエッセーを手にした。2012年に書かれたもので、タイトルは「メルキャベリの権力」という1。「メルキャベリ」は彼の造語で、道徳より権力を優先させたルネサンス期の思想家マキャベリとメルケルを合成したもので、メルケル首相の行動様式の辛辣(しんらつ)な分析である。

欧州でメルケル首相の力が強くなったのはユーロ危機のためといわれる。ギリシャの選挙で急進左派が勝利し、ユーロ危機は振り出しに戻ったが、共通通貨の行く末に思いを巡らすためにも、ベック氏という著名な社会学者のメルケル論を紹介する。

立場をはっきりさせない
ユーロ危機に関してドイツでは国益優先派と統合推進派が対立している。国益優先派とは、ドイツ国民の利益を重視し、財政危機に陥っている加盟国に対する支援に反対したり懐疑的であったりする人々だ。統合推進派とは何とかして共通通貨を守らなければいけないと主張する。また彼らの中には、統合欧州という理想から共通通貨に固執する人も、また経済的理由からそのように考える人もいる。

ベック氏によると、メルケル首相の強みは対立する国益優先派と欧州統合派のどちらにも加担しない点にあるという。こうして立場をはっきりさせないところが「メルキャベリズム」の第一原則である。

ユーロ加盟国が一緒になって借金するユーロ圏共同債の発行こそ、ドイツの政治家が絶対に越えてはならない境界線とされてきた。メルケル首相は、例えば2012年6月末の欧州連合(EU)首脳会談を前に「自分が生きている限りそんなことはさせない」と大見えを切り、国益優先派は感動したものだ。

しかし「ユーロ圏共同債」という立て札が付いた渡し場を利用しなくても、いろいろな迂回(うかい)路を通って境界線を越えることができる。欧州統合派のためにできた仕組みは、欧州安定メカニズム(ESM)であると思われるが、銀行同盟であろうが、欧州中央銀行(ECB)による欧州通貨単位(ECU)の国債の買い上げであろうが、「ターゲット2」であろうが、門外漢には分かりにくい。もしかすると境界線などはるか昔に越えてしまったのかもしれない。そういえば、新聞で「ユーロ圏共同債」という言葉を目にしなくなった。

前述のように、メルケル首相は欧州統合派と国益優先派のどちらか一方に加担することはない。その結果、どちらからも、味方としては不満があったとしても、自分とは100パーセント反対意見の政治家よりも彼女の方が良い選択肢であると思われることになる。

じらし戦術
メルケル首相が無名で、コール首相(当時)の引きがある旧東ドイツ出身政治家だったころのことである。彼女と会ったジャーナリストの中には、政治的な内容にあまり関心がなさそうとか、立場がはっきりしないといった印象を得た人がよくいたという。当時のこの印象はどちらにも加担しない今の「メルキャベリズム」に通じる。

しかし、風見鶏と異なる。風見鶏は右顧左眄してどちらかに加担するのであるが、彼女はそうではない。相対する勢力のバランスを取り、その決断の結果は欧州統合派が望む方向に進行しているのか、それとも後退しているのかがはっきりしないようになっている。これは高度の政治力学かもしれないが、難点は時間がかかる点だ。2015年2月のミンスク首脳会談でもそうだが、メルケル首相は最後の土壇場になってから行動し、遅過ぎることが多いようだ。

ベック氏によれば、なかなか決断せず後回しにすることこそが彼女の強みで「メルキャベリズム」の第二の原則だとされる。ドイツが首を縦に振らない限り、ユーロ圏での支援が始まらない。このじらし戦術こそ相手を飼いならして支配することになり、反対に相手は弱い立場に立たされていると感じる。

メルケル首相が決断を先延ばしするのは、状況次第では連鎖反応を起こしてクラッシュしかねないとされる現在の金融体制と関連しているからでもあろう。しかし、彼女が倹約することの美徳を説き、慎重さや臆病さから支援をだしにすることによって、その権力が強まり、ヒトラーの「第三帝国」にちなんで「第四帝国」と欧州で呼ばれることほど皮肉な話はないとベック氏はいう。

適性試験
メルケル首相は「世界で一番強い女」とか「欧州の女王」とか呼ばれている。でもドイツ国内の選挙で負けてしまったら何もならない。こうならないためにあるのが「メルキャベリズム」の第三原則で、これは彼女のユーロ圏支援が選挙民から支持されるかどうかをチェックする適性試験である。

例えばメルケル首相は、ユーロ圏救援策に応じる条件として、財政破綻国に対しドイツと同じような緊縮財政の実行を求める。ベック氏によれば、これはユーロ問題を本当に解決するためというより、国内で自分が適性試験に合格するためにするのだという。というのは、国益優先派に多い庶民はナショナリスティックな面を持つ人が多く、財政破綻諸国がドイツを模範に努力していると想像するだけで優越感をくすぐられるからだそうだ。

欧州がドイツのようになろうとすることは、メディアでは「欧州のドイツ化」と呼ばれる。この表現も本来ならヒトラーが目指した欧州新秩序を連想させるが、若いドイツ人はあまり気にならないようだ。

メルケル首相は、隣国に風刺される際、ヒトラーと同じようなひげを生やしていたり、ナチス親衛隊(SS)の制服を着ていたりすることに平気だそうである。このような国外での反発こそ、彼女が倹約を強制し「欧州のドイツ化」を力強く進めて選挙民を満足させ、ベック氏がいう国内での適性試験に合格していることを意味するからだ。

ネオリベラリズムの欧州
それなら、この「メルキャベリズム」というメルケル首相のかじ取りによってユーロ圏はどちらの方向に向かって進んでいるのだろうか。これまで国内の適性試験に合格してきた以上、彼女はドイツの国益優先派を失望させないことに成功してきたといえる。とはいっても現実は、加盟国の権限が欧州全体に移譲されていくなど欧州統合派の望む方向に進行している。

このようなメルケル首相の欧州統合についてベック氏は、長年の議論を経た熟慮の結果ではなく「自由意志からでなく、計画外のことで、金融危機の破局的結果を恐れるために始まった」と表現する。またメルケル首相が救援を望む加盟国の圧力に押され、ユーロ圏崩壊の不安から妥協を繰り返し、後からもっともな理屈をつけているだけだと思っている人も少なくないようだ。

また現在進行中の統合が、加盟国の政治家が選挙民からそっぽを向かれる決断をしないために、権限を欧州というより大きな単位に、また選挙民の手が届かないECBなどの機関に移行させているだけだと批判されることも多い。要するに外圧の利用である。こう考える人の目にユーロ圏は、自国民に大盤振る舞いする「借金共同体」や「無責任政治共同体」への道を歩んでいるように見えるだろう。

熱烈な欧州統合主義者であったベック氏が心配するのは、メルケル首相の「欧州のドイツ化」がネオリベラリズムを実現している点だ。彼によると、これが「メルキャベリズム」の第四原則である。確かに、財政緊縮で収入がほぼ40%減り、失業率が26%、若年層では50%以上のギリシャを筆頭として経済的に困っている欧州諸国を見ると、この印象は否定できない。

「メルキャベリズム」の今後
メルケル首相によるユーロ圏の構想は、これからどう展開するだろうか。
「メルキャベリズム」では、立場をはっきりさせないという第一原則が重要である。ギリシャのユーロ脱退はこの原則から見て望ましくない。そうなると、ドイツには700億ユーロに及ぶ損失が発生し、メルケル首相がしたことの意味が問われる可能性が強い。これは彼女が避けたい選択肢であろう。

このようにメルケル首相の考えが欧州の政治家に見透かされていることで、2015年1月のギリシャ総選挙の後に同国のヤニス・バルファキス財務大臣はフランスの新聞に対して「ドイツはいろいろ文句を言うかもしれないが、最後にはいつも必ず支払う」と発言し、これがドイツにも伝わってきた2。ユーロ圏の政治家がこれほど露骨な発言をすることは今までなかったのではないか。

この発言が困るのは「メルキャベリズム」支配の第三の原則、国内の適性試験合格を困難にする可能性がある点だ。というのは、ドイツ国民に対し、財政破綻国がけなげにもドイツを模範にして倹約に励んでいると思わせておくのがメルケル首相の合格パターンだったからだ。しかし「メルキャベリズム」の第二原則じらし作戦で、ギリシャの政治家を行儀良くさせることなど、彼女には簡単なことかもしれない。

ギリシャだけでなく他の欧州諸国が示すように、ドイツ式倹約をしても経済が改善されるとは限らない。ドイツでも貧困層が急速に拡大し、特にその数が年金生活者の間で過去7年間に46%も増大したという調査結果が少し前に発表された3。ECBのゼロ金利政策により、今後この傾向は強まるばかりだろう。

ギリシャで登場した極左を懐柔するのはそう難しくないかもしれないが、スペイン、イタリア、フランスといった大国で極左や極右が政権の座に就くと、厄介なことになると思われる。

このような内外の事情を考慮し、柔軟なメルケル首相は、今後ベック氏がいう第四原則ネオリベラリズムを弱めていくかもしれない。もちろんこの場合も「メルキャベリズム」第一原則に従って、どちらに加担するかをはっきりさせないようにして事態を進行させるものと思われる。この玉虫色の方向転換は社会福祉を重要視する社民党と連立しているので難しくはないだろう。

このように見ていくと、ユーロ圏はメルケル首相主導の下、問題が解決したかどうかはっきりしないままこれからも進んでいくような気がする。

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1 DER SPIEGELの2012年41号50-51ページ
2 http://www.welt.de/print/die_welt/politik/article136809168/Am-Ende-zahlen-die-Deutschen.html
3 http://www.zeit.de/wirtschaft/2015-02/armut-deutschland-bericht-paritaetischer-wohlfahrtsverband

M304-0011
(2015年2月26日作成)