スノーデンについてつけくわえたいこと

 スノーデンの自伝ですが、ドイツでは本人の願望にしたがって米国の憲法記念日9月17日に出版された後、直ちにベストテンの一位になり、4週間一位を維持し、その後2位と3位を行ったり来たりしています。2019年11月30日の今日出たシュピーゲル49号では3位です。ところが、私が調べたり、聞いたりした限り英語圏ではそれほど売れていません。これに関連して、私が思ったのは、なぜドイツでこれほど売れているかです。ところが、これについてはこの国でほとんど問題にされていないことです。書評で私の推測をしるしました。独裁国家や「破綻国家」(多くの場合は破綻に追いやられた国家)から逃げてきた人を保護することは国民として誇らしいことです。ところが、強いだけでなく、「旧戦勝国」兼「保護国」から逃げ来た人に亡命を認めるのは厄介な議論と紛争を招くことになるからです

 次の点は、本来ブッシュのイラク侵攻に賛成し愛国者のスノーデンが、どのような経緯で内部告発者になったのかが本書を読んでよく理解できたことです。彼に決定的であったのは、自国政府が法的に無コントロールで自国民の個人情報を何もかも集めて記録している点です。これは自国民のプラバシーの無視で、憲法違反だからです。2013年の時点では、この事情が、自分の勉強不足も手伝って、私にはピンと来ませんでした。

 それは、当時、米諜報機関が国際社会で監視システムをつくり、大規模に個人情報を収集しているという側面が強調されて私の頭の中に入って来たからです。そうなったのは、スノーデンがどこかに亡命しないといけない以上、米国が国際社会を監視しているという情報をいわばお土産としてもって来たからだと思われます。

 今回、スノーデンが自伝のなかで内部告発の動機として米国内の監視に重点を置くのは、彼のロシア滞在許可が2020年で切れことと関係があるかもしれません。もし彼が帰国し、裁判になったときに、それが合法的であるかどうかを人々に考えて欲しいからです。米国は、「内部告発」の正当性を問題にしないで、機密文書の窃盗罪やスパイの罪などで処罰しようとするからです。

 本書を読んでいて、スノーデンは若いのに本当にいろいろなことを考えていたことが分かり、驚くと同時に感動しました。例えば、彼はどのように内部告発するのが効果的かどうか考えて、メディアに協力してもらうことにします。この決意に至るまでのあいだに、メディアの在り方について考えます。彼が見るメディアの弱点は情報の意味を理解しようしないことです。彼が挙げる例は、NSAがユタ州に巨大な監視センターを建てていたのに、その規模を聞いても問題視する人があまりいなかった点です。

 また或るときCIAの技術責任者が多数のジャーナリストを含む大勢の人たちを前に、どのように個人情報をすべて収集しているかを詳細に語り、「CIAではすべてを収集し、いつまでも記録して置くことができます」、更に念を押すように、「人間が発する情報をほとんどすべて収集することができます」と発言しました。ところが、スノーデンが驚いたことに、この発言に衝撃を受けて「CIAが憲法違反を告白」と報道する人はいませんでした。

 ということは、内部の人間が証拠を手にして暴露するというかたちにしないと、つまり情報が舞台の上で演出されて提供されないと衝撃的なニュースにならず、無視されてしまうことになります。この鈍感さはどこか悲しいことですが、仕方がないことで、だからこそ、2013年の香港の

ホテルでの劇的なスノーデンの「内部告発」になりました。

 今や、メディアとなると、「フェークニューズ」ばかりが問題にされますが、本当は情報の意味が想像力の不足から理解できないことにこそ、問題であるように思われます。

 スノーデンは横田基地で働いているときに「ステラウィンド」という自国民監視プログラムについての報告書に出会い、うつ病に近い状態になってしまいます。ところが、面白いことに、「ステラウィンド」については2013年以前にネットで別の「内部告発者」が問題にしています。例えば、

とすると、本当に必要なことは、演出なしに情報について関心を寄せたり論議したりする言語空間が必要なのではないのでしょうか。とするとスノーデンの自伝はメディアの在り方について考えるキッカケになるような気がします。